第42章 推すのに忙しい私を押してこないで*煉獄さん
「そうなの!でもでも、私はやっぱりすずねちゃんの作ってくれるご飯が1番好きよ!いつもありがとう!…っ大変!待ち合わせの時間に遅れちゃいそう!私、行ってくるわ!」
私にとって最上級の褒め言葉と共に向けられた蜜璃様の花のような笑みに
キュンッ
私の胸に蜂蜜のような甘い幸せが広がっていく。慌ただしく遠のいていく蜜璃様の背中に"いってらっしゃい"と声を掛け
「…私の方こそ、本当にありがとうございます」
私は1人、誰にも聞こえないような小さな声で呟いた。
けれども私にはのんびりと感傷に浸っている時間はない。部屋の壁に掛けてある時計に視線をやり、頭の中で時間を逆算していく。
……20分っ!
猛ダッシュで台所へ向かい、水場に重ねていたお皿を洗っていく(お店で鍛えたお皿洗いの技術がこんな風に役に立つなんて嬉しい誤算だわ)。それから残っていた炊き込みご飯をすべておにぎりにし、竹の皮で丁寧に包む。残ったごおかずは、いたまないよう一般家庭ではまだまだ物珍しい冷蔵庫の中にしまった。
必要な作業を終え時計の進み具合を確認するとちょうど20分経過したところで
…よし!流石私!
思わず身体の前で小さく拳を握ってしまった。
それから蜜璃様が私に与えてくれた部屋へと急ぎ向かい、ササッと着替えを済ませると、私にとって必須な道具を引っ掴み玄関へと急いだ。
草履をひっかけ玄関をバタバタと出た私は戸締りを済ませると、蜜璃様が蛇柱様とお食事をされるという鰯庵まで急ぎ向かった。
「あんもう!蛇柱様ったら!もっとグイグイ行って欲しいのにぃ!」
私が現在いるのは鰯庵…ではなく、鰯庵から10メートルほど離れた場所にある草むらだ。
長く生い茂った草の間に身を潜め何をやっているか。端的に言っていしまえば
”覗き見”
だ。
お給金なんていらないと何度も言ったのに、”ダメよ…そんなのダメダメ!”と言って断固として折れてくれなかった蜜璃様から頂いたお給金で購入した双眼鏡を覗き込み、観察しているのは蜜璃様と蛇柱様のお食事風景である。