第42章 推すのに忙しい私を押してこないで*煉獄さん
「美味しい!美味しいわ!」
…かわいい
「すずねちゃんのご飯はいつ食べても美味しくってついつい食べ過ぎちゃうわ!」
…尊い
「でもでも…この後は伊黒さんとご飯を食べに行く約束をしているから、そろそろお終いにしないと」
両頬に手を当て困ったように眉を下げている蜜璃様は、可愛い以外の何でもない。
「炊き込みご飯はおにぎりにして見回りに持っていけるようにしておきます。残りは私が食べますので、お気になさらず伊黒様とのお食事を楽しんできてください」
「おにぎり!?やったわぁ!いつもいつもありがとう!すずねちゃん!」
蜜璃様は私の両手を取り、ブンブンと上下に激しく振り喜びの気持ちを表現してくれる。
「いいえ!蜜璃様に栄養たっぷりの美味しいお食事をお作りすることは、私の生き甲斐です!私の方こそ、生き甲斐を与えてもらった事、感謝の気持ちでいっぱいです!」
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食堂を営んでいた私の生家は、鬼に襲われ使い物にならなくなった。父が食われ、母も食われ、最後に私…となったその時、蜜璃様が現れ、私を助けてくれたのだ。
蜜璃様のことは、店に時たま訪れる、目をひん剥くほど可愛くて、麗しい身体つきで、鈴のような可憐な声をしていて、それなのに信じられないほど食べるお客様として認識していた。
蜜璃様は肩を震わせ呆然とする私に
"遅くなってごめんなさい。私がもう少し早くここに来られれば、あなたのご両親も助けられたのに"
と、酷く悲しげな顔をしながら謝り、ぎゅっと、痛いほどの力で私を抱きしめてくれた。その時私は、気が動転し過ぎてお礼を言うことが出来きず、それをずっと後悔していた。
店が使い物にならなくなり、ただただ1人寂しく、両親と3人で暮らした幸せな思い出と、鬼に襲われた嫌な思い出が混在する家で、息をし、寝るだけの日々を過ごしていた。
そんな私を救い出してくれたのは、またしても蜜璃様だった。
近くに来たからと私の家に立ち寄ってくれた蜜璃様は任務明けだったようで、お腹の虫を盛大に鳴らし、顔を赤くし恥ずかしがっていた。
だから私は、例え死にたいと思いながらなんとか毎日を送っていたとしても、自分を救ってくれた蜜璃様に恩返しをしなければと久しぶりに台所に立ち料理を作った。