第41章 今世の私も、余す事なくもらってください✳︎不死川さん※微裏有
実弥さんがフッと真剣な表情へと戻った。そして
「あんな馬鹿野郎が野放しになってる会社なんざ碌なところじゃねェ。セクハラ受けたとでも言ってさっさと辞めちまえ」
「え!?いいんですか!?」
「あァ。お前に経験がなくても、俺がその分教えてやりゃいい。それにお前の叔父さんも、自分とこの花屋に戻って来て欲しいって言ってたろォ?お前にはやっぱそっちの方が向いてる」
実弥さんはそう言いながら、その腕に引っ付く私をそのままに歩き始めた。
「帰るんですか?」
「その前に文房具屋だァ。退職届用の紙買いにいくぞ」
「…っはい…!!!」
やった…やった!私、実弥さんとすぐに結婚できるんだ!
そう思うと、地面から足が浮いていると勘違いしてしまいそうになる程、足取りが軽くなった。
これは後で宇髄様が教えてくれたのだが、再会を果たしたというのにさっさと結婚しない実弥さんに
”世間体とあいつどっちが大事なんだ?あいつ、見た目もまぁ悪かねぇし、愛想も器量もいいし。もたもたしてっと、どっかの誰かに搔っ攫われちまうかも知れねえな”
とはっぱをかけてくれたらしい(流石宇髄様です)。
車に乗り込んだ私と実弥さんは、そのまま24時間営業の書店まで向かい、退職届セットを購入した。
きっと私は、入社して2週間で退職をする骨のない非常識な新入社員だと思われるだろう。だけどそんなことはどうでもいい。
宇髄様が実弥さんにそう言ってくれたように、私も世間体なんてどうだっていい。まだ若いのにと思われようと、出会って間もないのにと思われようと、そんなことはどうだっていい。
私はただ、愛する実弥さんの”不死川”という姓を名乗りたい。そして叶うのであれば、また壱弥の母親になりたい。実弥さんに、壱弥の父親になってもらい、今度はその成長を可能な限り共に見守りたい。実弥さんによく似た、周りに自慢したくなるほどいい息子になる姿を見てもらいたい。
その為なら、私は喜んで非常識な新入社員になろう。
ビュンビュンと後ろに流れていく景色を見ながらそんなことを考えているうちに、今ではすっかりと見慣れた我が家にたどり着いた。