第41章 今世の私も、余す事なくもらってください✳︎不死川さん※微裏有
隣の部署だというこの男は、私の何がそんなにいいのか、元々隣にいた同期の女の子と強引に席を代わり、私の隣でまるでお酒を飲む事を覚えたばかりの学生のような飲み方をしながら執拗に絡んでくるのだ。
元々そんなに飲むつもりもなかったし、男の人と必要最低限話すつもりもなかった。
……どっか別の場所に行ってよね…
そんなオーラを放っているのにも関わらず
「もしかして先輩だからって緊張してる?俺上下関係とか気にしないから!気を遣わず話してよ!」
先程先輩の言う事を聞いた方がいいと言う発言などすっかり忘れた男は、私の肩でも抱こうとしたのかガバリと腕を伸ばしていた。
そんな行動に思わず
「すみません。私、婚約者がいるのでそんな風にされるの迷惑です」
実弥さんに、言わないようにと言われていた"婚約者"と言う言葉を出してしまった。
すると先輩は
「はぁ?婚約者?なになに、君って実はどこかのお嬢様なの?」
驚いた様子でそう尋ねてきた。
「そんなんじゃありません。ですが、私には数年後に結婚を約束した恋人がいるんです。だから他の人にはミジンコほども興味もないし、こんな風に触られるのは不快です」
私はそう言いながら、自分の肩に置かれようとしている先輩の手をペイッと払いのけた。
先輩はそんな自身の手をじぃーっと無言で見つめている。
よし今だ!
私はそれをいいことに
「おトイレに行ってきます」
急いで席を立った。
何なのあの男?ベタベタベタベタ人に触ってきて…しかも周りも我関せずって顔してるし…私あからさまに嫌な顔してたし、断ってたし…助けてくれてもいいのに…
イライラもやもやしながら手を洗っていると
「…大丈夫?」
同じ部署の1期上の先輩が声を掛けてくれた。鏡越しに見たその顔は、心から私のことを心配してくれていることが伺い知れて、荒だった心を僅かに落ち着かせてくれた。
ポケットからハンカチを取り出し手を拭いた私は
「…今のところは何とか…」
苦笑いを浮かべながらくるりと振り返り、鏡越しではなく直接顔を合わせた。