第41章 今世の私も、余す事なくもらってください✳︎不死川さん※微裏有
その人は困ったように眉の両端を下げると
「助けられなくてごめんね。実はあの人、この会社の役員の親戚で…みんな強く言えないの」
言葉の通り申し訳なさそうな表情をしながら謝ってきた。
…なるほど…だからみんな見て見ぬふりをしてたってわけね
なんて馬鹿馬鹿しいんだろうと思いながらも、会社にとって役員という存在がかなりの権力を有していることはわかっているし、それに逆らうことは、例え業務に関わっていない事例だとしても基本的には許されないことをこの2週間で学んだ。
…鬼殺隊は完全実力主義だったのに…現代の会社は違うんだな…世知がない
内心そんなことを考えながら
「謝らないでください。私がもっと上手く受け流せればよかったんですけど…ああやってベタベタされるの、どうしても苦手なんですよね」
目の前のこの女性が悪いわけじゃないのだからとにっこりと笑って見せた。
「…あの人、去年もあんな感じだったの。気に入った新入社員の女の子に目を付けて、歓迎会でちょっかいを出す…去年目を付けられたの子は、結局断れないままホテルまで連れ込まれちゃったらしいの」
「…随分と典型的な手段ですね」
「あの人、顔はイケメンだし口だけはうまいからねぇ…新人の女の子が引っかかっちゃうのもわからなくもないの」
そこまで話を聞いて抱いた印象はひとつ。
あの人、私が最も苦手な人種だ
という事だ。
「…教えてくれてありがとうございます」
私は丁寧に頭を下げながらお礼を述べた。
「いいのいいの。実は私も、引っかかりそうになった女の一人なの…同じように先輩に助けてもらって何とか踏みとどまったけど」
「そうなんですか……しょうもない男」
ボソリとそう呟いた私に
「ふふふ…あなた面白い子ね」
「そうですか?」
女性は楽し気に笑っていた。その可愛らしい笑顔に思わず私も笑ってしまう。
「そう言えば、あなたさっき婚約者がいるって言ってたけど…あの人を遠ざけるための嘘なんでしょ?」
手を洗いながらそう尋ねてきた女性に
「いいえ。あれは本当なんです」
私は満面の笑みでそう答えた。