第40章 欲しかったのはそっちじゃない✳︎無一郎君
「誉め言葉として受け取っておくね。でもさ、なんで私がここにいるってわかったの?それに郊外授業は?」
私のその問いに、時透君はその呆れた表情を更に深めた。
「あれから一体何時間経ってると思ってるの?今はもう放課後だからね?」
「え…そうなんだ」
「”そうなんだ”じゃないよ。冨岡先生、すずねがまだ学校にいるの気が付いてるよ?僕、探して職員室まで連れて来いって頼まれてるんだけど」
「あちゃー。せめて鞄くらい持ってくればよかった。高等部に来てから先生に叱られるなんて初めて。なに言われるんだろぉ…」
苦笑いを浮かべポリポリと右手の人差し指で頬をかきながら立ち上がろうとしたが
「待ってよ」
私が腰を浮かせるよりも早く、時透君が立ち上がり、三角座りでそろっている私のつま先を両膝で挟むようにしながら立ちはだかった。
時透君はそのまま私の頭の少し上に両手をつき、先程まで暖かな日差しを浴びていたはずの私の身体は、すっかりと時透君の身体で覆われ日陰になってしまった。
「どうかした?」
頭頂部の少し先にある時透君の顔を見上げながらそう尋ねると
「…この状況に、ちょっとは慌てたりドキドキしたりしないわけ?」
時透君はじっと私の瞳の奥をのぞき込むような視線を寄越してきた。
「……ドキドキ…どうして?」
問われている言葉の意図がいまいち理解できず、私は思わずそう尋ねてしまう。すると時透君はぐっと眉間に皺を寄せた。私はそんな時透君の表情に
「あ、駄目ですよ?そんな表情をしていると、素敵な素敵なお顔に皺がついてしまいます」
前世でもよく口にしていた小言にも近い口癖がこぼれてしまう。
そんな私の言葉に、時透君はムッとした表情を見せた後、壁についていた手の位置をトントンと下へと移し
「…っ…流石に…近すぎやしませんか?」
私の顔に、ズイッとその顔を寄せてきた。
流石にこの距離感は…駄目な気がする…!
互いの鼻がくっついてしまいそうな程の近距離は、元家事炊事係と主、キメツ学園筍組の2年女子と1男子の正しい距離感とは言えない。