第40章 欲しかったのはそっちじゃない✳︎無一郎君
「なにボケっとしてるわけ?」
「……時透様…?」
慣れ親しんだ声に、私は過去にすっかり引きずられていた意識を取り戻した。
「”時透様”じゃなくて”時透君”でしょ?そんな呼び方してるとクラスメイトに気味悪がられるよ?」
時透様…じゃなくて時透君は、私の隣に、私と同じように三角座りで腰かけた。
その後しばらく互いに言葉を発さない時間が続いたが、不思議と居心地の悪さのようなものは感じなかった。
チュンチュンと鳴くスズメの声に耳を傾けながら隣にある時透君の気配を感じていると、自然と瞼が重くなって来てしまう。
「よくこの状況で眠たくなんてなるね。っていうか、冨岡先生に帰れって言われたんじゃないの?」
眠気を覚ますために目を擦り、隣にいる時透君の方へと顔を向ける。
「…さすがに気持ちの整理をしてからじゃないと家にも帰りにくいしね。空でも見てのんびりしながら色々考えたいなぁと思ったの」
「言っておくけどここ基本的には立ち入り禁止だからね?」
「うん知ってる。でも、時透君だって来ちゃったんだから同罪でしょ?」
そう言いながらニコリとほほ笑みかけた私を、時透君は呆れたような顔で見ていた。
その表情…懐かしいな
前世でも、同じような視線を何度となく受けて来た。その視線ははたから見れば決して好意的なものではなかったが、無表情な頃のそれを知っている私とすれば、そんな表情すら嬉しく思えた。
「なにその顔」
「…うぅん。何でもないよ」
「…思い出しても相変わらずその緩さなんだね」
「緩いって…私の性格?」
「そ」
「……緩い」
前世でも今世でも、確かにどちらかと言えば穏やかな…悪く言えば鈍くさい性格である自覚はある(今改めて考えると現場を外されたのはその鈍くささのせいなのかもしれない)。だからこそ、あの頃の時透様と上手くやっていけていたのだと思っている。