第40章 欲しかったのはそっちじゃない✳︎無一郎君
あんなのにぶつかったら…普通の人なんてひとたまりもないな
そんなことを思いながら道の端に避けようとしたその時
「……っ!!!」
道を挟んで隣にある雑貨屋から、3.4歳くらいと思われる男の子が出てきた姿が視界に映り込んだ。
その男の子は、こちら側にころりと転がっている石が気になったのか周りの喧騒など全く耳に入らないようでフラフラとこちらに向かい歩いて来ててしまう。
…っ…だめ!このままじゃ…ぶつかっちゃうかもしれない…!
馬が近づいてくる速さと男の子の歩く速度から考えると、ぶつかるかぶつからないか何ともきわどい所だった。
けれども私とて時透様つきの隠になる前は、隊士のサポートをする身としてあちこちを駆け回っていた身だ。
大丈夫…あの大きさの男の子一人なら…何とかなる!
私は手に持っていた買い物袋を地面に置き、男の子を回収しようと足に力を込めた。
その時
「…だめよっ!!!」
雑貨屋の中から血相変えたその子の母親と思われる女性が飛び出して来た。
それから男の子の身をとらえたところまではよかったのだが、自身に迫りくる馬の勢いに腰が抜けてしまったのかその場にへたり込んでしまう。
…まずい…脱力してる成人女性は…私の力じゃ抱きかかえられない!
それでも放っておく選択肢など選べるはずもなく、私は渾身の力を込めて跳躍した。私の両手は女性の身体の側面をしっかりとらえ
「…きゃぁ!!!」
女性の身は、男の子を抱えたまま、雑貨屋に突っ込む勢いで馬の進行方向からなくなった。その代わり、言わずもがなその進行方向に踏み入ってしまったのは私なわけで
「すずねちゃん!!!」
八百屋のおじさんの声と
ドッドッドッドッ
あと1メートルもないところまで迫っていた馬の足音がやけに大きく耳に届いて来た。
鬼殺隊で隠として働いている以上いつでも死ぬ覚悟はあった。それでも
「……っ…!」
眼前に迫って来た馬の蹄と死の予感に
…時透様に…もっと私のご飯食べてもらいたかったのに
そう思わずにはいられなかった。