第8章 炎の音に包まれて【音好きシリーズ】※裏表現有
「…少し、待っていてください」
炎柱様の返事を聞く前に、巾着を持ち私は厠に向かった。
厠につき、巾着から小瓶を取り出す。中には丸薬が入っており、私はそのうちのひとつを自らの口み、一緒に少量の水も口に含んだ。
これでもう、後には引けない。
一瞬帰ってしまっていたらどうしようと不安になったものの、炎柱様は先程と同じ姿勢でそこに居た。けれども視線は、畳に向いており、私の方は向いてくれない。それが少し悲しかった。
これが、最初で最後だから。
私は徐に炎柱様に近づき少し屈むと、その頬をグッと両手で掴み無理矢理私の方へと顔を向けた。
「…っ何を…!?」
そう言って口を開いた炎柱様に
ちぅっ
自ら口付け、口の中に含んでいた水と丸薬を炎柱様の口内へと流し込んだ。
「…!?」
ゴクリ
突然のことに対応できなかったのか、吐き出されたどうしようかと心配していたのにも関わらず、炎柱様は水と丸薬を割と素直に飲み込んでくれたようだった。
効果はわりとすぐに出るはず。
私が炎柱様から唇を離そうとするも
「…っんぅ…!」
炎柱様の両手が私の頭を掴み、それを許してはくれない。
ちぅ…ちゅる…ぷちゅぅ
自分から仕掛けたはずの口付けなのに、気づと主導権は完全に炎柱様に握られてしまっていた。
…何…これ…口付けって……こんなに気持ちよくて…いやらしいの…?
まるで炎柱様に食べられているようだった。
私の頭が激しい口付けで完全に蕩けきった頃、
ちぅっ
と音を立て、炎柱様の唇がようやく離れていった。
はぁ…はぁ…はぁ…
はじめての深い口付けで、私の息は完全に上がっていた。
「…俺に、何を飲ませた?」
私の思考回路は、ぼんやりとしか動いてくれない。
「精力…剤…です」
「成る程。通りで身体が必要以上に熱いわけだ」
そう言っている割には、炎柱様の口調は先程までとあまり変わりがない。
「…っ!」
けれどもその顔を見ると、頬は紅潮し、目はギラギラと欲を孕んでいた。
グッと炎柱様に強く腕を引かれ
「…痛っ」
あっという間に部屋の真ん中に敷かれていた布団に組み敷かれる。
「何故…こんな事をする?」
私の目に映っているのは、興奮を懸命に堪えている炎柱様の顔と、天井だけ。