第8章 炎の音に包まれて【音好きシリーズ】※裏表現有
「…っ今日は、私の行きたいお店に…行ってもいいですか…?」
震えそうになる声を抑え、平静を装う。
「うむ!構わない!して、どこへ行きたいんだ?」
ニコニコと微笑みながらそう問うてくる炎柱様は、まさか私が炎柱様を"蕎麦屋の二階"に連れ込もうとしているとはきっと夢にも思っていないだろう。
「…こっちです」
いったい私は今、どんな顔をしているんだろうか。
しばらく歩き、
「ここです」
私たちがたどり着いた店が何屋なのか気がついた炎柱様は
「……」
その店の二階を見つめ、珍しく沈黙していた。
恥ずかしい。
逃げたい。
いったいどう思われているのか。
怖い。
そんな気持ちを心の奥底に沈め、
「…っ行きましょう」
私が先に店に入ろうとすると
パシリ
「君は、意味をわかってやっているのか?」
炎柱様が私の腕を掴んだ。その声は、先程までの楽し気な様子とは一変し、低く、怒っているのがはっきりとわかる声だった。
でも、引き下がることはできない。
「……わからない程、子どもではありません」
振り返り、炎柱様の目をジッと見据えそう言った私に
「そうか」
炎柱様はそう言うと、
「俺が先に行く」
と言って私が開けようとしていた扉を、カラカラと音を立てその手で開いた。
2階に通され、蕎麦がやってきて、炎柱様は大盛りの蕎麦と天麩羅を無言で食べていた。私も山菜蕎麦を頼み食べたものの、緊張でそれどころではなく全く味を感じない。
ごゆっくりどうぞ
蕎麦を持って来た時の店主の含みのある言い方と目線がとても居心地が悪く、この場所が"そういうこと"を目的で使われていることがありありと感じられた。
コトリ
とお皿が置かれ、私よりもはるかに多い量を注文したのにも関わらず、炎柱様は私よりも早く食べ終えたようだ。炎柱様は、胡座をかき、腕を組みながら
じーっ
と私を見る。
「…っ食べにくいんですけど」
「そうか。それはすまない」
声色からしてやはり炎柱様はまだ怒っているようだった。
当たり前か。
「ご馳走様でした」
蕎麦を食べ終え、箸を置き、私は炎柱様の方に身体を向ける。
「…お腹は…満たされましたか?」
「あぁ。だが俺は未だに、なぜ自分がこの場にいるのか理解出来ない」
炎柱様は私を睨むように見ている。