第40章 欲しかったのはそっちじゃない✳︎無一郎君
前世の記憶を全て取り戻せたわけじゃない私は、時透君が何故こんなにも私に怒っているのかわからなかった。
「……」
「ねぇ!黙ってないでなんか言いなよ!」
…そう言われても……まだちゃんと思い出せないんだもん…仕方ないじゃない
内心そう思いながら、私に悲痛な表情を向けて来る時透君を見返した。すると
「時透さん落ち着いて!」
不死川君と
「無一郎君の気持ちはすごくよくわかる!だけど、ちゃんと話をしないとすずねにはまだわからないよ」
竈門君がそれぞれ時透君の肩に手を置きながらそう声を掛けた。視界をほんの少しずらすと、心配げに私たちのことを見ている我妻君の姿が確認できる。
…あ、そうか。我妻君、不死川君と竈門君を呼びに行ってたのか…それじゃあ…
「柏木」
「……冨岡さ…じゃなかった…冨岡先生」
予想通り、不死川君と竈門君を引き連れ牧場のオーナーの手伝いをしていた冨岡先生も現れた。冨岡先生の登場に、時透君、竈門君、不死川君、それから後藤先生もその口をキュッと閉じる。
「どこかぶつけている可能性もある。お前は念のため、俺と先に学校に帰るぞ」
「え…でも…」
時透君が私の頭を守るようにしながら転んでくれたため、草で擦った部分以外痛い所なんてなかった。
「特にだいじょ「帰れ。俺が送っていく」」
冨岡先生は、ジッと鋭くも見える視線を私に寄越し、言葉を遮りながらそう言った。
「……わかりました」
私の返事を聞いた冨岡先生はその視線を時透君の方へと移すと
「俺が先に話をする。いいな」
有無を言わせない口調で言った。時透君はそんな冨岡先生のことをしばらくの間睨むように見ていたが、ふっとその目力を緩め
「……わかりました」
しぶしぶながらそう返事をしたようだった。冨岡先生は時透君の返事を聞くと、”すぐに戻る”と後藤先生に告げ、さっさと車へと向かってしまう。
後ろ髪を引かれながらもその背中についていこうと一歩踏み出したその時
「すずねさん」
時透君が私のことを昔の呼び方で呼び
「乱暴なことしてごめん」
悲し気に瞳を伏せながらそう言った。