第40章 欲しかったのはそっちじゃない✳︎無一郎君
ぼんやりと一点を見つめながら溢れ出てくる記憶に集中していると
「…大丈夫か?頭でも打ったか?」
「すずねちゃん雑草まみれじゃん」
心配げに私をのぞき込んできた後藤さん…じゃなくて、後藤先生の言葉と、私の身体に付着した葉っぱを払おうとした我妻君の手を
「先生今すずねに話しかけないで。善逸はすずねに触んないで」
時透様(今まで通り時透君って呼ばないとおかしいか)が遮った。
前世の記憶が今世の私と融合するように溶け込んでくる。そして前世の記憶のフィルム映画が終わると
「……そういうことか」
私は、長年抱いて来た疑問の答えを見つけ出した。
「そういうことって…何が?」
先に起き上がっていた時透君が私の背中に手を添え、私の顔を心配げにのぞき込みながらそう尋ねてきた。
私はすっかりと落ち着きを取り戻した様子の馬をスッと指さし
「…私、前世で馬にぶつかって死んだからこんなにも馬が怖かったのか」
内容とは伴わない明るい口調でそう言った。
「原因がわかってなんかすっきりしちゃった」
長年抱いてきたどうしようもない恐怖の気持ちの根源を知ることが出来た爽快感にも似た気持ちに、私の口角は自然とあがってしまう。
けれども
「…何へらへらしてるわけ?」
時透君の怒ったような、それでいて悲しそうなその声に、キュッと心と顔を引き締めた。俯き、長い髪で隠れてしまった顔を見ることは出来ないが、その声色と雰囲気で、今の時透君が、なにかと私の世話をやいてくれるいつもの時透君でないことはよくわかった。
「……時透君…」
恐る恐るその名を呼ぶと
「…っなんで!なんで安全なはずの日中に!安全なはずのあの町で!あんな風に死んじゃうのさ!?」
「…っ痛…」
時透君は、私の両肩を、その手でガシッと掴んだ。
「あの時僕がどれだけ驚いたかわかる!?どれだけ悔やんだかわかる!?」
「おい!落ち着け時透!」
いつの間にか我妻君はいなくなっており、この場に残っていた後藤先生が初めて見る酷く興奮した様子の時透君を懸命になだめようとしていた。