第40章 欲しかったのはそっちじゃない✳︎無一郎君
自分が置かれている状況がまったく理解できずに激しく困惑したが、それ以上に
ドッドッドッドッ
周りの風景が変わっても尚迫ってくる馬の存在に
あぁ…私…また馬とぶつかって死ぬんだ
と、漠然と思った。
けれども
「すずね!!!」
自分の名を呼ぶどこか聞き覚えのある叫び声が聞こえたと同時に、辺りの景色が元に戻り
グィッ
「……っ!!!」
胸部に感じた物凄い圧とともに、私の身体は地面へと転がった。
ドクドクと物凄い音を立てている胸の音を聞きながら、それと相反する穏やかな青い空を見ていると
「なにやってるわけ!?どうして逃げないの!?」
視界に映る青空を遮るように飛び込んできたのは、一つ下なのに、先輩であるはずの私の前に度々現れては鈍くさい私を助けてくれる後輩の男の子………じゃない。
今よりずっとずっと前。”鬼”という恐ろしい生き物が存在していた時代に、私がお世話係として仕えていた主
「……時透…様?」
霞柱の時透様だ。
「…っ!?」
時透様は翡翠色の瞳を大きく見開き、私の顔を凝視していた。その表情は、時透様からはあまり見たことのないそれで
「…大丈夫ですか?」
私は思わずそう尋ねてしまう。時透様はそんな私の様子に”…はぁ”とため息をひとつ吐くと
「…人の心配してる場合じゃないでしょ。っていうか…思い出したの?」
そう言いながら私の腕を引っ張り上半身を起こしてくれた。
「……思い…出した…?」
私は問われている意味がいまいちわからず首を傾げる。
「…まだ混乱してるみたいだね」
そんな会話をしている間に
「お前たち怪我はないか!?」
今日の引率者の1人である後藤先生が酷く慌てた様子でやって来た。
…あ…後藤先生のことも……私、知ってる…
更に
「すずねちゃぁぁぁぁん!?大丈夫ぅ!?!?怪我してないぃぃ!?!?」
後藤先生を驚くほどの俊足で抜かしてきたのは
…我妻君……善逸君…だ…
相も変わらず騒がしく、女の子にモテたいモテたいと騒いでいる黄色い頭の同級生だ。
「……」
私の頭の中でまるで一つの映画を観ている様に過去の記憶が再生されて行く。