第8章 炎の音に包まれて【音好きシリーズ】※裏表現有
待ち合わせの場所に行くと、早めに着いたのにも関わらず炎柱様の姿がもうそこにあった。
やっぱり素敵な人だな。
風に靡く獅子のような髪も、特徴的な凛々しい眉も、意志の強い燃える様な瞳も、口角の上った可愛らしい口元も…全てが私の目に魅力的に映った。
あんなにも、あんなにも、苦手で怖いと思っていたのに。頭に響く嫌な声だと思っていたのに。今では頭だけではなく、耳の奥に、そして胸に甘く響いている炎柱様の声。
炎柱様の気持ちを受け止められたら。自分の気持ちを素直に伝えられたら。どんなに幸せだろう。
「…好き」
独り言の様に呟いた言葉は決して炎柱様には届かない。
うぅん。届いたらいけない。
その時、
パッと炎柱様がこちらを向きパチリと目があった。その途端、顔を綻ばせ
「柏木!」
炎柱様は私の方へ近づいてきた。
私はこの後、この人に抱いてもらうんだ。そう考えると、感じたことのない熱いものがじわりと私を侵食して行く。
「お待たせしてすみません」
「いいや!君から誘ってくれたことが嬉しくてな。早く来すぎてしまった!それにしても、今日はいつにも増して愛らしい。俺と会うため、その様な装いをしてくれたのか?」
「…はい。今日は炎柱様と…きちんとデートが…したくて」
自分で言っておいて、酷く恥ずかしくなってしまい、私の頬は赤く染まっていたに違いない。
そんな私のいつもとは違う様子に、炎柱様は目を見開き驚いていた。そしてじーっと私を見つめる。左目は眼帯で覆われており、右目しか私の方には向けられていないのにも関わらず、その視線はとても力強いものだった。
「……なんです?」
あまりの熱視線にとても居心地が悪く、私が炎柱様を見上げながらそう問うと
「いや。あまにりも柏木がいつもと違い素直故、驚いている。普段の天邪鬼な君も可愛らしいが…素直な君は一層可愛らしい」
眉を下げ、本当に愛おしいものを見るような優しい目で、そう言った。
「…っありがとう…ございます」
小間物屋を覗き、甘味を食べ、正午をかなり過ぎた頃
ぐぅぅぅう
と隣を歩く炎柱様のお腹から大きな音が聞こえてきた。その音につられ左隣を歩く炎柱様の顔を見ると、
「わはは!少し前に甘味を食べたのだがな。腹が減ってしまった!」
私はこの時を、この言葉を待っていた。
