第39章 あなたの声は聴こえてるよ✳︎不死川さん※微裏
だから不死川とのこの関係が
”恋仲同士”
じゃなかろうと
”身体だけの関係”
だろうと、不死川が私を必要としてくれて、側に置いてくれるのであれば、それでいいと思っていた。
「毎日最低1回、この化膿止めを塗って下さい」
先の任務で私は背中に傷を負った。すでに身体中に大小様々な切り傷があるので、今更切り傷がひとつ増えたことに関しては特にどうってことはない。
けれども、鬼の爪に毒成分が含まれていたらしく、きちんと薬を塗らないと治りが遅くなってしまうし傷跡も多く残ってしまうとのことで、蝶屋敷の新たな主人である花柱様の妹さん…しのぶさんが私用にと調合してくれたのだ。
屋敷の主人を引き継いでまだ数か月のしのぶさんはまだまだ忙しいらしく、私の診察を終えると後を神崎さんに任せて別の部屋へと行ってしまった。
「わかりました」
私はそう答えながら塗り薬の入った入れ物を神崎さんから受け取った。
…自分で塗れるか…ちょっと微妙な位置だなぁ…
頭の中で自分が薬を塗る場面を思い浮かべてみるも、女性にしては身体が固いと言える私の腕で果たして届くのかが微妙なところではあった。
「もし自分で塗ることが出来ず、頼む相手がいないようであれば、こちらに来ていただければお塗りしますので」
そう提案して来てくれた神崎さんに一瞬甘えてしまおうかと思いはしたが、花柱様を失って心身ともに忙しいのは神崎さんも一緒のはず。
”あァん?薬ぬれだァ?面倒くせェな…”
そう言いながらも丁寧に薬を塗り込んでくれそうな不死川の姿を頭に思い浮かべ
「大丈夫です。お気遣いありがとうございます」
私は神崎さんの申し出を丁重にお断りした。
「そうですか。では今日はもうお帰りいただいて結構です」
「ありがとうございました」
椅子から立ち上がり、神崎さんにお礼を述べた私は診察室を後にした。