第39章 あなたの声は聴こえてるよ✳︎不死川さん※微裏
不死川はそんな私の言葉に
「…馬鹿がァ…」
気まずそうな様子でそう言った後
「任務が終わったらここに戻って来い」
小さな声でそう言った。
「……わかった」
不死川にそう返事をした私は、主に足のつけねと腰の痛みに堪え
「じゃあまたね」
と言い残し、開け放たれたままになっていた襖を通り、そのまま真っすぐ玄関に向かい風柱邸を後にした。
…不死川…一体どうしたんだろう
合同任務の待ち合わせ場所に向かう道すがら、私は不死川が何故あんな行動を取ったのかを懸命に考えてみた。
一見乱暴に見える不死川だが、その中身は驚く程硬派で優しい。不死川のそばにいればいる程、その人間性を知れば知る程、不死川以上に優しく、不器用な人間はいないと思うようになった。
だからこそ、不死川があんな風に私を抱いた理由がわからない。そう言った類の話をしたことはなかったが、先ほどのあの扱い方からして不死川に"経験"があることはわかった。
だからどうってことはないし、私自身だって初めてじゃない。それでも、あんな風に、感情のすべてをぶつけられるようなそれは初めての経験だった。
…なんで…あんな辛そうな顔…してたんだろう
私を抱いている間、不死川はずっと悲し気な表情をしているように見えた。
私には…話せないことなのかな…
そんなことを考えながらだらだらと田んぼ道を歩いていると、あっという間に集合場所に到着してしまった。そこにはまだ誰の姿もなく
早く着きずぎちゃったかな
私はまだだるさを感じる身体を休めようと、木の根元に座り込んだ。頬を撫でる温かい風と茂った木の葉っぱ同士がこすれる心地のいい音。そして何より慣れないことをしたせいで、打ち込み稽古では感じたことがない種類の疲れを感じていた私は猛烈な眠気に襲われた。
…駄目だ…こんなんじゃ任務にも支障が出ちゃうし…ちょっとだけ寝よう
私は自分の鴉に”誰か来たら起こして”とお願いすると、三角座りをした膝に顔を埋めしばしの仮眠を取ることにした。