第39章 あなたの声は聴こえてるよ✳︎不死川さん※微裏
「…わかってる!」
けれども時間が合う際にはいつもこうして打ち込み稽古をつけてもらっている私にとっては、そんな視線もなんてことはない。それに
「…まぁ吐くのが1回で済むようになったんだァ。お前も少しはマシになってきてんだろォ」
「ん。ありがと」
不死川が私のことを思って厳しい稽古を付けてくれているのだから、それに対して不満など抱くはずもない(極たまに少しくらい容赦しろと思うけど)。
「稽古はここまでにして、飯にすっか。今日はなんにすんだァ?」
不死川が使っていた木刀と私が使っていたそれの2本を持った不死川が、片づけをしながらそんなことを尋ねてきた。
「今日はねぇ、いつもより豪華だよ!しかも、良い小豆が手に入ったから、餡子作ってあるの!食後におはぎ出してあげるから楽しみにしてて」
自分の吐しゃ物を桶の水で流しながら(いつものこと過ぎて恥ずかしさを感じなくなってしまったこの状況はいかがなものだろうか)不死川にそう言うと
「……」
隠しきれない喜びが、その口元にしっかりと表れていた。
…ふふ…本当可愛いやつ
私は不死川に密かな好意を抱いていた。もちろん最初はただの同期としか思っていなかったし、まさか自分がこんな”狂犬”という言葉が誰よりも似合う男にそんな感情を抱くことになるとは思ってもみなかった。
けれども日々稽古をつけてもらい、なぜか食事を作ってあげるようになり、ともに過ごす時間が長くなればなるほど、私はその不器用なまでの優しさに惹かれていった。
不死川が私のことを女として見ていないことはよくわかっていたし、色恋にうつつを抜かすようなタイプでないことも十分に理解していた。
だから別に恋仲関係になれずとも、こうして稽古をつけてもらえて、自分の作ったご飯を食べてもらえて、そしてあの年よりも僅かに幼く見える笑顔を時たま見られればそれでよかった。
「…意外に美味ェんだよな」
「意外って何よ失礼ね」
私が作った味噌汁をジッと眺めながら、さも不思議そうに言った不死川をキッと睨みつける。