第38章 呼び方なんてどうでも…よくない!*冨岡さん
でも一つだけ。
「ねぇ義勇」
「なんだ」
「…名前…もっと…呼んで欲しいな」
直接的な愛の言葉も、あからさまな行動もいらない。ただ、義勇の声で、私の”すずね”という名前だけは呼んで欲しい。
「…わかった」
「ありがとう」
「……すずね」
「ん?」
「…呼んだだけだ」
「…っふふふ」
その後ようやく鮭大根にありつけた義勇は、無言で鮭大根を頬張り続けた。義勇はやはり”美味しい”と口に出して言ってくれる事はなかったが、煮汁の一滴残すことなく平らげたその行動が全てを物語っていた。
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「合コン行きましょうよ!」
昼休み、河本さんと社食でご飯を食べている私の前に、時代遅れのぶりっ子…もとい、田中さんが表れた。
「合コン?彼氏がいるのに行くわけないじゃないですか。田中さん、例の愛情たっぷりな彼氏はどうしたんです?合コンなんて行ったら彼氏怒るんじゃないですか?」
面倒くさそうな様子を一切隠さずにそう言う河本さんに
「あんな口だけ男、とっくに別れました!あいつ、私以外にも何人も女がいたみたいで!思いっきり平手打ちして別れてやりました!」
田中さんは興奮気味にそう答えた。
「ふぅん」
私は、河本さんのあまりにも興味なさそうなその返事に、思わず笑いそうになってしまう。すると田中さんは勢いよく私の方へと顔を向け
「だから、ね!行きましょう柏木さん!」
目をキラキラとさせながらそう言った。その言葉に対する私の答えはもちろん
「私も、彼がいるのにそんな場所には行きません」
考えるまでもなく決まっている。そんな私の言葉に
「え?柏木さん、まだあの彼氏と付き合ってるんですか?一人の男に執着しても時間の無駄じゃないですか?」
田中さんはそんなことを言ってのけ
「…っちょっと!あなたねぇ!」
私ではなく、河本さんが怒りの感情を滲ませた。