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鰯料理の盛合せ【鬼滅短編・中編・長編番外編】

第38章 呼び方なんてどうでも…よくない!*冨岡さん


すると義勇は


「いいや。お前が…すずねが謝る必要はない。俺は恥ずかしさにかまけ、名前を呼ぶことも、気持ちを伝えることも出来なくなっていた」


そう言いながらさらに強い力で私にぎゅっと抱き着いてくる。


「すずねには俺の気持ちが伝わっていると…そう思い込んでいた。すずねが俺にくれる愛情に…甘えてしまっていた。…すまない。これからは気を付けると約束する。だから…俺を捨てないでくれ」


義勇の口から出て来ているとは思えないような言葉の数々に


「…ちょっと待って」


私は義勇の首に回していた腕を外し、その顔を見ようと義勇の両肩に手を置いた。それからぐっと自分の身から義勇を引き剝がそうとしたのだが、義勇は離れてはくれず、むしろ更に私に回す腕の力を強くした。


「…ねぇ、顔見せてよ」


私がお願いするも


「今は無理だ」


間髪入れずにそう言われてしまう。


「…なんで?」

「…俺は今とても情けない顔をしている。そんな顔は見られたくない」

「やだ見たい。見せてくれないなら…鮭大根食べちゃ駄目」

「……それは少しずるくはないか?」

「ずるくないもん。ね?顔、見せて?」

「……」


鮭大根を人質に取られ(人じゃないけど)、義勇は観念したのかフッと身体に入れていた力を抜いた。それから私は義勇の身体を自分から離し、肩に置いていた両手をその頬へと移動させ、しっかりと義勇の顔が見えるように顔の角度を変えた。

すると視界に入ってきたのは


「……っふふ」

「笑うな」


義勇と付き合いが長い私だからこそわかるちょっとしたその変化に、私の胸は義勇に対する愛おしさで満たされていた。


「義勇」

「なんだ」

「大好き」


私はいつものように義勇に愛の言葉を囁き


「…俺もだ」


義勇はそう言うだけで”好き”とは口にしてくれない。それでも、私の顎に優しく添えられた右手から、私の目をのぞき込んでくる吸い込まれてしまいそうな程に綺麗な瞳から、そして


ちゅっ


私の唇に重ねられた義勇の薄い唇から、確かな義勇からの好きが伝わっていた。義勇の唇はあっという間に離れて行ってしまったが、私にはそれで十分だった。

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