第38章 呼び方なんてどうでも…よくない!*冨岡さん
私の誕生日や記念日も、サプライズをしてくるようなタイプではないが、必ずケーキを買ってきて私が欲しいと言ったものをくれる。
過去には”義勇が自分で選んで欲しいな”なんてお願いしたこともあったが、その時にもらったものがあまりにもセンスにかけるものだったので(しかもそう思ってしまった気持ちを顔に出してしまった)以降はリクエスト制で落ち着いている。
よくよく考えてみれば、義勇とのこの穏やかな日々に、なんの不満もない。ただ自分の方が”愛情を言葉にする機会”が多いだけで、義勇からの”不器用ながらも確かな愛情を感じる行動”は日々感じている。
そもそもあのマイペースな義勇が、好きでもない相手と生活を共にできるとは思えない。
愛情表現方法は、他者と比べて優劣をつけるものじゃない。大切なのは”私と義勇”、恋人同士である私たち2人がいかにお互いを想い合っているかであって、周りからどう思われているかじゃない。
…私…何を悩んでいたんだろう…
靄のかかった私の心がパァっと晴れた気がした。
その時
ガチャっ
「…え?」
脱衣所のドアの鍵がひとりでに動き始めた。そしてゆっくりとその扉が開くと
「…すずね…」
そこにはハサミを左手に持った義勇の姿が。
…あれで…鍵を回したのか
そんなことを考えながら義勇の姿をぼんやりと視界に映していると、義勇は左手に持っていたハサミを洗面台に置き、そのまま真っすぐに私のところまでやって来た。そして
「…すまなかった」
そう言いながら、三角座りをしている私の前で両膝を着き、私のことを上から覆うように抱きしめて来た。そんな義勇の珍しい行動に、私の胸がキュッと切ない音を立て、同時に申し訳なさが込みあげてくる。
私は自分の膝を抱えるようにしていた両腕を解き、それを義勇の首に回すと
「…私の方こそ…ごめんね」
自分の方へ引き寄せるように、ぎゅっと強く抱き返した。