第38章 呼び方なんてどうでも…よくない!*冨岡さん
「だってなぁに?2人とも誰が見ても両思いだったからまさか断るなんて思ってなくて、私も錆兎もすごく驚いたんだよ?」
真菰はそう言ってアイスココアの入ったストローをぐるぐるとかき混ぜた。
「…だって相手はあの義勇君だよ?あんな格好良くてモテモテな人と…私、付き合っていく自信なんてない」
本当は私だってあの告白を受け入れたかった。でも私は、寡黙だけど陶器のようにイケメンでモテモテの義勇君がしょっちゅう校内で呼び止められては連絡先の交換を迫られたり、合コンに誘われたりしているのを度々見かけている。
もし告白を受け入れて付き合ったとしても、引く手あまたの義勇君の前にはひっきりなしに素敵な女の子が表れて、不安になったり、最悪心変わりされてしまうことだってあり得るかもしれない。そんなことになってしまうのであれば、友達のままでいた方がよっぽどいい。
そう思っていたのだが。
「義勇はモテるけどモテないんだよ」
「…え?」
真菰の意味が分からない発言に、私はまたしても口元まで運んでいた最後の一口を元に戻した。
「義勇はさ、確かにあの見た目だから声を掛けられることは多いんだけど、大抵”思ってたのと違ってつまんない”とか言われて女の子の方から自然と離れていくの」
さらりとそんなことを言った真菰だが
「…何それ…ひどくない?」
私はその顔も知らない女子たちが物凄く腹立たしかった。
「小学生の時からずっとそんな感じだよ。本人もそんなの慣れっこだし」
「慣れてるって言っても…まったく何も思わないわけじゃないでしょ?つまんないって何さ。義勇君はあの冷静沈着で寡黙でちょっと天然なところがいいんじゃない。見た目だけで判断して自分から近づいてきてそんな風に言うなんて…最低だよ」
イライラしながらチョコレートパフェの最後の一口を食べたその時、グラスの向こう側にある真菰のにっこりと細められた目と、私の僅かに吊り上がっているであろう目が合った。
「錆兎も言ってたんだけど、義勇にはすずねちゃんがぴったりだと思うの。それに、義勇があんな風に自分から人を好きになるのって初めてだから、幼馴染の私たちとしてはそんな義勇の気持ちを応援したいんだ」
真菰はそう言ってポケットからスマートフォンを取り出した。