第8章 炎の音に包まれて【音好きシリーズ】※裏表現有
天元さんは私の顔をジーッと見つめた後
「お前を連れて行く上で条件がある」
真剣な顔つきでそう言った。
「…なんです?その条件って…?」
何を言われるのだろうか。
聞き流すことがないよう、天元さんの声に全神経を集中させる。
「お前が、こいつとなら良いと思う相手と情を交わして来い」
「…え?」
「それが出来なけりゃ連れては行かねぇ」
何だその馬鹿げた条件は、と思ったものの天元さんの顔は真剣そのものだった。
「…どうして、それが条件なんです?」
遊郭に行くんだ。そういう行為をする覚悟は…少なからず出来ている。私にとって、それ程あの3人は家族のように大事な存在になってしまったのだ。
「俺はお前を太鼓女郎として売るつもりだ」
「太鼓女郎…ですか?」
「お前、琴弾けんだろう?宴会で琴やら三味線とか弾くんだよ。琴、弾けたよな?」
成る程。遊郭にはそんな役割を担う女性もいるのか。
「弾けます。琴は私の特技です!」
「俺がなんとか上手いこと言って客は取らせないように言う。だが、一度買われちまったらお前はその店の商品。それが守られる保証はねぇ。柏木、遊郭に来る客はな、俺様みたいに派手にいい男ばかりじゃねぇ。お前は普通の女だ。いや、男に関しては普通以下だ!そんなお前に、なんの経験もなしに遊郭に行けと言える程、俺は酷い男じゃねぇ」
天元さんが私の思っていた以上に私のことを考えていてくれたことに、私は軽い感動を覚えた。
「だから最初の男はお前が、自分で選べ」
「…っそんな無茶な…」
「いいや無茶じゃねぇ。真っ先に頭に浮かんだ相手、いるんじゃねぇか」
「…っ…」
図星だった。この身を捧げても良いと思う相手なんて、1人しか思い浮かばない。
「あの列車の任務依頼、お前らちょこちょこ飯食いに行ってんだろ?俺様がそれを知らないとでと思ったか?」
「っそれは…そうなんですけど…別に約束したとかそう言うのじゃなくて…!何故か私が任務を終えて帰る途中…炎柱様が現れるんです!任務がある事も、終えた事も、言ったことがないのに!」
そうなのだ。私が一生懸命自分の気持ちに蓋をして、炎柱様と関わりを持たないようにしていたのに、何故か現れる。
"待っていた!今日は何が食べたい?"
と、満面の笑みを浮かべ(初めて見た時は幻かと思った)。
