第38章 呼び方なんてどうでも…よくない!*冨岡さん
突然怒鳴りだした私に義勇が珍しく驚いた表情を浮かべていたが、完全に怒りのスイッチがオンになってしまった私の口からは
「お前お前お前って…私にはすずねって名前があるの!私はちゃんと”義勇”って名前で呼んでるのに…どうして義勇は呼んでくれないの!?どうして…全然好きって言ってくれないの!?好きじゃないならさっさと別れればいいじゃない!惰性で付き合ってなんか欲しくない!!!」
ここ数日胸にくすぶっていた不満や不安が次々と物凄い勢いで出てきてしまう。そしてそれに伴うように、ぼろぼろと涙も一緒になって零れてきてしまい、怒っているはずなのに全然格好がつかない。
義勇はそんな私の様子を驚いた表情で見ているが、その口から何か言葉が発せられる気配はない。
「…なんで…何も言ってくれないの!?」
頭の片隅では、ただ感情をぶつけるようなことを言っても義勇が理解してくれないことなんてわかっていた。それでも溢れ出てしまった感情はそう簡単には止まってくれなくて
……だめだ。一旦一人になろう
こまま義勇の前にいても、碌なことしか言えないと思い、私はお玉を鮭大根を煮ている鍋に乱暴に突っ込み義勇の前から去ろうと一歩踏み出そうとした。けれどもそんな私の前に立ちはだかるように
「…どいてよ」
義勇が立ちはだかる。
「…どこへ行く?」
「どこだっていいでしょ!一人になりたいの!放っておいてっ!」
「放っておけるような状態じゃないだろう」
「うるさいな!邪魔!そこどいて!」
「落ち着け。話をしよう」
「話なんてしたって無駄じゃん!義勇に私の気持ちなんてわかんないじゃん!」
ぼろぼろと泣きながらキッと義勇の顔をにらみつけ、暴言ともいえる言葉を吐き続ける私に反し、義勇はいつもと変わらぬ表情でいつもと変わらない口調でそう言ってくる。そんな様子が更に私を苛立たせた。
ドンっ
と思い切り義勇の身体を両手で押しのけ、一人になれる場所…鍵のついている洗面所へと向かった。扉を閉め鍵に手をかけたその時
「…すずね」
私を追って、洗面所の前まで来た義勇が私の名前を呼んだ気がしたが
…今呼ばれたって…全然嬉しくないし
そのまま鍵を回し、義勇との接触を断ち、洗面所の隅っこまで行きその場に座り込んだ。