第38章 呼び方なんてどうでも…よくない!*冨岡さん
「……でも…たまには向こうから…歩み寄ってほしいんだもん」
俯き、ぼそっとつぶやいた私に
「柏木さん…やっぱかわいい」
河本さんは真顔でそう言ったのだった。
その後私と河本さんは連絡先を交換し、私は会社勤めを始めてから初めてプライベートでも会いたいと思える相手が出来たことを密かに喜んだ。
”またなにかあったら愚痴ってください”
送られてきた河本さんからのメッセージを読み
…義勇に…ちゃんと話をしよう
私はようやくその決心がついたのだった。
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仕事を定時で切り上げ、昨日1日碌なご飯を作らなかったお詫びも兼ね、自宅の最寄りのスーパーに立ち寄り義勇の好きな鮭大根の材料を調達した。ついでに自分の機嫌も取っておこうと大好きなミルクレープも買い、”お夕飯前にお菓子は食べちゃだめよ”なんて遠い昔にお母さんに口酸っぱく言われた決まり事を敢えて無視することで、自分の気持ちを盛り上げようと目論んでいた。
なのにだ。
……まだ帰ってこない
鮭大根は満足のいく出来栄えだし、お味噌汁も浅漬けも出来た。ご飯も7時半に炊き上がるようにセットしていたから、もうとっくに炊き上がっている。
…既読には…なってるのに…
メッセージアプリで
”帰りは何時頃になる?”
と送ってから優に3時間は経過しているのにも関わらず返事は来ていない。自分の機嫌を取ろうとご飯を作りながら食べたミルクレープの味はもうすっかり忘れてしまった。
…なに…なんなわけ?私が…どんな気持ちでこの鮭大根を作ったと思ってるの?
河本さんと話して落ち着いたはずの私の心は、河本さんと話をする以前よりも激しい怒りの波に襲われた。
もう全部食べてやろうと鍋に火をかけようとしたその時
ガチャ
玄関が開く音が聞こえ、義勇が仕事から帰ってきたことが伺い知れた。