第38章 呼び方なんてどうでも…よくない!*冨岡さん
どうかしたのだろうかと疑問に思いながら河本さんの顔を遠慮がちに見ていると
「私はどちらかといえば柏木さんの彼氏寄りのタイプだから…ちょっとだけ柏木さんの彼氏の気持ちわかるかもしれません」
河本さんは顎に手を当て視線を上にあげながらそう言った。
「私もねぇ、前の彼氏とは柏木さん以上に長いこと付き合ってたんです。まぁ私たちの場合、私も元彼もお互いに愛情表現下手だったし、どっちも歩み寄れなくて別れちゃったんですけど」
河本さんはそういうと一瞬悲しげな表情を見せた。けれどもすぐ明るい表情へと戻り
「私たちはお互いに歩み寄れずに別れを選びました。そうしたことに後悔もないし、あの時の失敗があったから今の彼とは上手くやれています」
”今のところは”といたずらっ子のように無邪気な笑顔を浮かべた。
「…そうなんですね」
「私の見解によりますと、柏木さんと彼氏さんにはまだまだ話し合う余地も、歩み寄れる可能性もあります!だからあんな時代遅れのぶりっ子の言葉なんか真に受けないで、不満や不安があったらきちんと話し合った方がいいです。彼氏さん、私と同じで自分の気持ちを表現するのが苦手なタイプなだけだと思うから」
「…河本さん、気持ちを言葉にするのが苦手なの?」
こうして話している限り、そんな印象はまったく受けなかったので思わず私はそんなことを尋ねてしまう。
「普段は全然そんなことないですよ?でも、彼氏に対してだけは…どうしても苦手なんです」
そう言って、後少ししか入っていないコップの水をくるくると回しながら顔をしかめた河本さんは、なんだか困ったような表情をしていており、私にはそれがとってもかわいらしく見えた。けれども、なんとなく河本さんはそう言われるのが苦手そうだと思い心の中で思うだけに留めた。
「彼氏、柏木さんに冷たくされてきっと余計に何も言えないんですよ。話を聞く限り絶対言わないとわからないタイプだし。だからね、不安になる気持ちも不満に思っていることも、全部きちんと柏木さんが言葉にして伝えてあげないと。柏木さんから歩み寄れば、彼も少しは歩み寄って来てくれるかもしれませんよ?」
河本さんの言うことはもっともで、自分でもそうするべきだなとは思った。