第38章 呼び方なんてどうでも…よくない!*冨岡さん
私が目を丸くしながらそう言うと
「やっぱりそう思います?彼氏にもちゃんと噛んで食べろってよく𠮟られるんです」
河本さんは苦笑いを浮かべそう言った。その後ちらちらと周りの様子を確認するように見回した後、私の方にスーッと顔を寄せてきた。その行動に私も自然と河本さんに顔を寄せる。
「この間の件、すんごい不思議だったんですけど、あの時代遅れのぶりっ子…どうして柏木さんの彼氏のこと知ってるんです?柏木さんとあの子、そんな仲いいようには見えませんけど」
「実はですね、彼と買い物をしている時、偶然会ってしまって…その後あまりにもしつこく聞いてくるから面倒臭くなって話してしまったんです」
「なるほど。結果余計面倒臭くなったわけですね」
「…よくおわかりで」
あの時はまぁ最悪だった。
柏木さんの彼氏すごくイケメンなんですね…紹介してください!
という意味の分からないお願いから始まり、当然断ったのだがその後は
職業は?
馴れ初めは?
付き合ってどれ位?
しまいには
年収は?
更に意味の分からない質問を延々と毎日飽きもせず投げかけられた。結果、繁忙期で休憩時間すら惜しいと思いながら仕事をしていた私は、ものすごく適当に、けれども律儀に全部の質問に答えてしまったのだ。
その結果が、先週のあれだ。
「柏木さん、朝から元気ないみたいですけど…彼と喧嘩でもしました?」
「…え?」
予想だにしない河本さんからの質問に、私は河本さんの顔を見ながら目を見開き固まってしまう。
確かに私は今日、非常に落ち込んでいるしイライラしている。けでども決してそれを態度に出すまいと平静を装いながら仕事をしていたし、自分としてはきちんとそれができていたつもりだ。けれども河本さんからその質問をされたということは、はたから見て私はいつも通りの振る舞いが出来ていなかったということになる。