第38章 呼び方なんてどうでも…よくない!*冨岡さん
「…うん。図書館」
振り返ることなく、洗濯物を干しながらそう答えた私に
「何を怒っている」
義勇は先ほどの眠たげな声とは違い、はっきりとしたそれで言った。自分の態度が悪い自覚はあったし、朝っぱらからこんな態度を取られたら私が義勇でもイラっと来る。頭ではそれが理解できたものの、心はそうもいかない。
「……別に怒ってないし」
私がそう答えると
「…そうか」
義勇はあっさりと引き下がり、それ以上聞いてくることはない。そんな様子がさらに
…ムカつく
私をイラつかせた。
「…っ今日は外でお昼食べてくるから!そっちはそっちで勝手に食べてね」
私は言い捨てるようにそういうと、準備しておいた鞄を引っ掴み、どすどすと玄関へと向かった。そのまま出しっぱなしにしていたパンプスに足を突っ込み、乱暴に玄関を開けると、普段であれば義勇が家にいても念のためにと鍵をかけるのだか、それもせずにマンションのエレベーターへと向かった。
結局その日は家に帰ってからも義勇とまともな会話を交わさなかった。話しかければ答えてくれる義勇ではあるが、私から話かけようとしなければ、ここまで会話がなくなるのかと改めて実感させられた。
それがまた腹立たしくて、私は何か言いたげな義勇の視線を無視しつつ、最低限の家事炊事を済ませ
”明日は朝から会議があるから”
と、嘘をつき昨日同様さっさと眠りについた。
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翌日。
いつもより少し遅めの昼食を社食で一人食べていると
「となり、良いですか?」
声をかけてきてくれたのは、田中さんに”時代遅れのぶりっ子”という素晴らしい命名をした子だった。
こんな風に社食で話しかけられることは初めてのことだったので、驚き、一瞬返事をするのを忘れてしまった。けれでもすぐ我に返り
「…どうぞどうぞ!」
左手で隣の椅子を引きながらそう答える。