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鰯料理の盛合せ【鬼滅短編・中編・長編番外編】

第37章 大きな背中を抱きしめさせて【暖和】


「見てみなさい。甲が隠れてしまいそうだろう?」


杏寿郎さんの言葉に、杏寿郎さんに手を添えられている方…自らの左手に視線を向けてみると、確かに羽織の袖口部分が私の手の甲を覆ってしまいそうだった。

杏寿郎さんはまじまじと私の羽織…正確に言えば、杏寿郎さんから譲り受けた私の羽織の袖口と、私の手の甲を見比べた後


「それでは万が一の時危険だ。千寿郎に頼んで少し丈を詰めてもらうといい」


そう言って私の方をクルリと振り返った。私は杏寿郎さんと視線が合うや否や


「嫌です」


思わず即答してしまう。

杏寿郎さんはまさか私が”嫌”と言うとは思っていなかったようで、目を丸くし驚いていた。


「…袖口は両手で日輪刀を握っていればなんの問題もないですし、今まで邪魔と思ったことは一度たりともありません」


私は基本的には師範である杏寿郎さんの言葉に逆らったりはしない。それは”恋仲”という立場においてもそうだ。杏寿郎さんのお願いであればどんなことであれ聞いてあげたいし、叶えてあげたい(あまりにも素っ頓狂な時は断ることもあるけれど)。

私は杏寿郎さんに回していた腕を解き、身に着けている羽織の前部分を両手でぎゅっと握りしめた。すると杏寿郎さんも胡坐をかいたまま反転し、私の方に身体の正面を向けてきた。そんな杏寿郎さんの行動に、私は思わず視線を床にむけてしまう。


「…この羽織は…杏寿郎さんから譲り受けた大事な羽織です…何があっても…絶対に手を加えたくありません」


身体の大きさに合っていない自覚はもちろんあったし、周りからも言われたことはある。それでも私は杏寿郎さんから譲り受けた羽織を、そのままの形で着ていたかった。

私のその言葉に杏寿郎さんは何も言わなかったが、その視線が私に注がれていることはひしひしと感じた。

程なくして


「わかった!」


いつもの快活な声色でそう言った杏寿郎さんに、私は下げていた視線を上げる。

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