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鰯料理の盛合せ【鬼滅短編・中編・長編番外編】

第37章 大きな背中を抱きしめさせて【暖和】


「何故だ?どうかしたか?」


私の”離して欲しい”というお願いがお気に召さないのか、杏寿郎さんは僅かに不満げな様子でそう尋ねてきた。


「…離してくれたら…理由を教えてあげます」

「むぅ。まだこうしていたいのだが…仕方あるまい」


杏寿郎さんは言葉の通り渋々ながらも腕を離し私を解放してくれた。杏寿郎さんの脚の間から抜け出した私はいそいそと杏寿郎さんの背後に回り

ぎゅっ


「む?」


炎柱の羽織を踏まないようにしながら再び膝立ちになると、杏寿郎さんの首に腕を回した。


…髪の毛…ちょっとくすぐったい…


ぴょんぴょん跳ねている杏寿郎さんの前髪が(どうしてこうなるのか何度見ても何度考えてもわからない)私の頬に当たりこそばゆい。けれどもこんな風に杏寿郎さんの大きな身体を私の身体で包み込めるのがとても嬉しく、そんなことは対して気にならなかった。


「すずね」

「なんでしょう杏寿郎さん」

「これが…俺の腕から抜け出したかった理由か?」


杏寿郎さんのその問いかけに


「…はい。私も…杏寿郎さんを抱きしめてあげたいんです」


右手の位置を上へとずらし、杏寿郎さんの右側頭部を撫でるようにしながらそう答えた。すると


「…ははっ…そうか!ならば文句は言えないな!」


杏寿郎さんはそう言って笑いながら私の左ひじあたりにその大きな手を掛けた。


「はい。たまには…選手交代です」


誰かを守ってばかりの杏寿郎さんを
私が守ってあげたい。
自分を後回しにしてばかりの杏寿郎さんを
私が甘やかしてあげたい。


「私だって…こうして杏寿郎さんを抱きしめられるんですよ?」


形のいい側頭部に頬ずりをする私に


「…君が相手なら…こうされるのも悪くない」


杏寿郎さんは呟くようにそう言った。













しばらくそうして杏寿郎さんを後ろから抱きしめていたが


「ずっと言わねばならないと思っていたのだが…その羽織、やはりすずねには大きすぎやしないか?」

「え?」


杏寿郎さんの突然の”羽織が大きすぎやしないか”発言に、杏寿郎さんのぬくもりと匂いを堪能していた私は(やってることが杏寿郎さんと一緒じゃないかと我ながら呆れた)一気に我に返る。

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