第37章 大きな背中を抱きしめさせて【暖和】
その時
「…へ!?」
私の腕を掴んでいた杏寿郎さんの腕の位置が変わったと認識したと同時に
グルン
私の視界がひっくり返り
ドスン
気が付くと杏寿郎さんの胡坐の間に収まっていた。
…何…?
ポカンと正面に広がる中庭を見ながら意味のない瞬きを繰り返していると
「急な状況の変化にも対応できるいい身のこなしだ」
私の背後にいる杏寿郎さんが何やら私のことを褒めてくれているようだ。
「ありがとう…ございます…?」
お礼を言いながらも、やはりまだいまいち状況把握が出来ていない私の頭には疑問符が浮かび上がってしまう。
「心配いらない。すずねは気配もきちんと殺せていたし物音もしていなかった」
杏寿郎さんはそう言いながら私の腹部に両腕をぐるりと回した。その腕に、私も杏寿郎さが先ほどそうしてくれたように自らの手を重ねる。それから首をひねり背後にいる杏寿郎さんの顔を見る。
「…それじゃあ、なんで私に気が付いたんですか?」
杏寿郎さんの綺麗な瞳をじっと見ながらそう尋ねると
「すずねの匂いがしたからな!」
杏寿郎さんはにっこりとかわいらしい笑みを浮かべながらそう言った。一方私は
「…え?」
…私の…匂い…もしかして…私…汗臭いんじゃ…!!!
幸い返り血等は浴びなかったし、そこまで薄汚れてはいない。それでも散々駆け回った身体は確実に汗をかいている。
「…っダメ!離して下さい!」
腹部に回されている杏寿郎さんの腕を引きはがそうとするも、私の力では到底杏寿郎さんの力に敵うはずもなくピクリともしない。
それどころか
すぅぅぅぅ
「…やっ…だめです!やめてください!」
杏寿郎さんは私の首元に顔を埋め、匂いを嗅ぎ始めた(それもものすごく深く)。任務明けの汗をかいた身体を嗅がれ、私は羞恥心でどうにかなってしまいそうだった。離れてもらおうとバタバタと脚を動かしたり、首を振ったりしてみるも、やはり全くと言っていいほど意味を成さない。
…だめ…恥ずかしくて…死んじゃう…
そのうち抵抗する気も失せ、私はガクリと項垂れるように脱力した。すると杏寿郎さんは私の首元から離れ…たと思いきや、ヒョイと顔の位置を変え、先ほどとは逆側の首元に顔を埋めると再び
すぅぅぅぅ
匂いを嗅ぎ始めた。