第36章 これから先の未来、ずっと一緒に✳︎不死川さん
待っていても気を遣わせるだろうと思い、私は実弥に言われた通り一人小高い丘を登り始めた。
…っ…地味に…辛いじゃない…!
花屋で立ち仕事をしているとはいえ普段碌に運動をしていない私には低い丘でも息切れを起こしてしまう。それでも休むことなく、はぁはぁ言いながら丘のてっぺんを目指し歩いた。
…あと…ちょっと…!
そうして丘のてっぺんにたどり着き、向こう側に見えた景色は
「…っすごい…なにこれ…」
太陽に向け燦燦と花開く向日葵畑だった。
もう夏は終わり、秋と呼ぶのがふさわしい季節だ。品種によっては遅咲きの向日葵があることは知っていたものの、ここまで、あたり一面を覆いつくすような向日葵畑を目にするのは初めてのことだった。
息をするのも忘れてしまいそうになるほどその美しい景色に目を奪われていると
「すずね」
いつの間に近くに来ていたのか、実弥さんが私の名を呼んだ。その声につられ
「…っ凄い!凄いです実弥さん……っ!?」
振り返ったその先にいたのは、体格のいい実弥さんの手にも収まりきらなそうな程立派な向日葵の花束を抱えた実弥さんだった。予想外の光景に私が固まっていると、実弥さんが私と横並びになるようにその歩みを進めた。
「…すげぇな。話には聞いていたがァ…実物がこんなにも迫力あるたァ思わなかったぜ」
実弥さんは僅かに目を細め、うっとりと見入るように向日葵畑を見つめていた。そんな実弥さんの表情に、私も目を奪われてしまう。
「…花屋でバイトしてるお前なら知ってると思うがァ…向日葵は太陽の方を向いて花を咲かすからその名が付いたらしいなァ」
「…そう…らしいですね…」
「らしいって…お前ェそんなことも知らねェで花屋でバイトしてんのかァ?」
実弥さんが呆れた表情をしながら私にチラリと視線を寄越す。
「…はい…育てるのも…見るのも好きですが…花言葉はまだ…」
「客に聞かれたら困んだろォ?それくらい勉強しておけェ」
実弥さんはそういうと、再び正面へと視線を向けた。