第36章 これから先の未来、ずっと一緒に✳︎不死川さん
ぎゅっと実弥さんに回した腕の力を強くし、波だった心を鎮めようと実弥さんの匂いをスゥっと体内に取り込む。
「…お前、あの犬っころに嫉妬したのかァ?」
「っさすがに私だってあんなかわいい子に嫉妬心なんて抱きません!飼い主ですよあの飼い主!私の実弥さんをあんな目で見て!実弥さんは私の実弥さんなんですからほかの人が…っ…」
実弥さんのまさかの発言に本音がポロリと口から出てきてしまい慌てて口を噤む。けれども当然一度出てきてしまった言葉を帳消しにすることは出来ず、恥ずかしさを覚えた私は実弥さんの身体から腕を離した。
…子どもっぽくて…呆れただろうなぁ…
そのまま一歩後ずさろうとするも
「…っ!」
実弥さんの手が私の左手首をパシッと掴みそうはさせてくれなかった。実弥さんに手首をつかまれた驚きと
「…っ冷た!実弥さん、まだ手がビショビショじゃないですか!」
明らかに濡れている実弥さんの手の冷たさに二重に驚いてしまう。
「あァん?あんだけ犬っころ触ったんだから手ェ洗わなけりゃ汚ねェだろォ?」
「…あ………なるほど…」
目をぱちくりさせながら呟いていると
「声掛けたってのにお前ェがどっか行っちまうからよォ…慌てて洗って来たんだろうがァ」
実弥さんは空いている左手で、ポケットに入れていたタオルハンカチを取り出し(相変わらず見た目によらずちゃんとしてるな)、左手だけで起用にそちらの手を拭いた後、私の手首を掴んでいた手を離し、私の手首と一緒に自分の手を拭いた。
それから改めて私の手を握ると
「…勝手にどっか行くんじゃねェ。心配すんだろうがァ」
私の手を引き、速足で歩き始めた。
「…ごめんなさい」
謝る私のことを
「なにがだァ?」
実弥さんは一切咎めることなく、珍しく手をつないだままご当地のお土産であふれる店舗の中へと足を踏み入れた。そんな実弥さんの行動に、私個人としては
”実弥さん大好き!”
と、叫びだしたいくらいの気持ちの盛り上がり方をしていたが、さすがにそれをしてしまうと叱られてしまうだろうと思い、心の中で叫ぶだけに留めたのだった。