第36章 これから先の未来、ずっと一緒に✳︎不死川さん
しばらくその様子を食い入るように見ていると、その視線に気が付いた実弥さんがパッと私の方へと視線を寄越した。実弥さんは、立ち上がり女性に何か声を掛けた後、私の方へと歩き始める。女性は綺麗な笑みを浮かべながら実弥さんへと会釈し、実弥さんが女性に背を向けたと同時に私の方に視線を寄越すと
”なぁんだこんな子か”
と、言わんばかりの顔を私に向けてきた。カッと頭に血がのぼってしまった私は、手を拭いていたタオルをバッグに乱暴に突っ込み、実弥さんが私の元にたどり着くのを待つことなくサッとすぐ右手にあった店舗の入口から中に入ってしまった。
「っおい待て!すずね!」
実弥さんが私を呼び止めた声が聞こえたが、どうしても足を止める気にはなれずそのまま歩き続けた。けれどもそんな行動をしながらも
すぐに追いかけて来てくれるはず
なんてことを心の中で思っていた。なのにちっとも私を引き留める手が現れてくれない。
不安になり後ろを振り返ってみると
「…いない…?」
実弥さんの姿は見当たらず、ずらりと並んでいる自販機が見えるのみ。途端に不安になり来た道を戻ると
「おいすずね!お前ェ、さっき何で無視したァ!?」
手をビシャビシャに濡らしたままの実弥さんが、ちょうどトイレから出て来たところだった。その姿を目にした途端どうしようもない安心感が心を包み込み、あんなにも心を乱していた怒りの感情がふっと消えてなくなった。
私は実弥さんの問いに答えることなく
ドンッ
「…っ!?」
人目も憚らずその身体にぎゅっと抱き着いた。いつもの実弥さんであれば
”人の目がたくさんあるところでんなことしてくんなァ!”
と怒ってきそうなものだが
「…どうしたァ?」
私の様子がおかしいとくみ取ってくれたのか、いつもとは違う反応が返ってきた。
「…追いかけて来てくれないから…呆れて…どっか行っちゃったのかと思った…」
我ながらなんて稚拙な行動と発言だろうと呆れてしまう。けれども前世に比べ大人の余裕が香る実弥さんと、まだ社会経験もない子どもな自分。さっきのtheお姉さまから見れば、不釣り合いに見えたに違いない。少なからずあの2人(と一匹)を見て私はお似合いだと感じてしまった。