第35章 年下幼馴染は私より何枚も上手✳︎無一郎君
「はいはい。いやぁ今日はむい君の優勝と、むい君の長年の片思いが実ったお祝い…二つお祝いしないとね!」
お母さんのその言葉に
「はぁ!?何それ!?お母さんも無一郎の気持ち知ってたわけ!?」
私は思わずその場で立ち上がる。
「何言ってんの。気づいてなかったの、あんただけよ?」
お母さんはさも呆れたと言わんばかりの声でそう言いながら有一郎の為のコーヒーを落としている。
「おばさんだけじゃないよ?おじさんも知ってるし、うちの両親も知ってる。知らなかったのは鈍ぅいすずねだけ。今日無一郎が何をしようとしていたか、知らなかったのも鈍ぅぅいすずねだけ」
「…うっそ?」
「嘘なわけないでしょ。みんなむい君の気持ちを尊重して黙って見守ってたけど…まぁじれったいったらありゃしない!あんないい男が側にいるのに、あんた何度変な男に引っかかれば気が済むわけ?お母さん、何度ペロッと言っちゃいそうになったことか。でも、それも今日で終わりよ!」
”やったわ~!むい君が本当に私の義理の息子になるまでもう少しよ~”
何かとんでもない発言をお母さんがしているような気もするが、もう色々ぐちゃくちゃ過ぎて突っ込む気すら起きなかった。
再び力なくソファーに座り込んだ私の前にコーヒーを片手に持った有一郎が来る。そして私の顔をじっと見た後
「すずねはとっくの昔に無一郎から王手を取られてたってわけ。どう転んでもすずねが無一郎に勝てるわけないんだから、無駄なことしないで、そのまま身を任せたほうがいいと思うよ」
そう言って私のお母さんが淹れたコーヒーに口をつけた。
「…それもそっか」
急すぎる展開の数々に、戸惑う気持ちは大きい。けれどもこれからの無一郎と過ごすであろう日々に不安がなくなってしまった今、残ったのは、6歳下の幼馴染との未来を楽しみに思う気持ちだった。
「…早く会いたいな」
ソファーの背もたれにだらりと身体を預け、天井を見上げる私の様子に
「うわ。なにそのニヤケた顔。気持ち悪いから止めたほうがいいよ」
有一郎の毒舌攻撃が放たれる。
「どうぞお好きに言ってくださぁい」
そんな事は少しも気にならないほどに、私の頭は無一郎のことでいっぱいだった。