第35章 年下幼馴染は私より何枚も上手✳︎無一郎君
有一郎はそれを右手で持ち、親指で画面をスワイプすると
「もしもし…もちろん見てたよ…うん……わかった。ちょっと待って」
電話の相手(絶対に無一郎以外ありえない)と少し話した後
「はい」
私に向けズイッとスマートフォンを差し出してきた。ちらりと画面を確認すると、やはり想像していた通り”無一郎”と名前が表示されており、途端に差し出されたそれを受け取りたくなくなる。
「何してんの?さっさと受け取りなよ」
「…だって…」
「いい歳した大人がだってとか言わないでくれる?ていうかこれ以上俺を巻き込まないで欲しいんだけど」
僅かに怒り出してしまった有一郎の様子に
「わかった!わかったから怒んないで!」
慌ててその手からスマートフォンを受け取り、右耳に当てた。すると
”…すずね?”
先ほどまでテレビに映っていた無一郎の声が聞こえてくる。
「…うん」
何あれ
どういうこと
どうしてあんな勝手なこと
そう聞いてやろうと思っていたのに
”好きだよ”
「…っ…!」
電話口から聞こえてきたその一言に、どの言葉も出てこなかった。
”誰にも渡したくない。今までもこれからもこの先もすずねが好き”
平坦な声で紡がれているはずのその言葉は、私の心を熱く激しく揺さぶった。
「……私も、無一郎が好きだよ」
その好きは、もう”幼馴染”としての好きとは違う好きだということを、私の胸の鼓動がはっきりと示していた。
”すぐ帰るから、そこで待っててね”
「…わかった」
”じゃあね”
プッ
と、電話が切れるや否や脱力するようにソファーへと座り込む。
「丸く収まったみたいだね」
私に向けスッと手のひらを見せてきた有一郎のそこにスマートフォンを置き
「急すぎで…もう何がなんだか…」
今更”やっぱりなし!”なんて言うつもりはないし、そう言えないほどに私の中でも無一郎の存在は大きくなってしまった。だからと言って今後どうなっていくか…とても不安ではあった。
「急も何もないよ」
有一郎はそう言いながらキッチンの方に歩いていき
「コーヒーのおかわりが欲しいな」
と、私の母に珍しく可愛らしい声を出しながら催促をしている。