第7章 その音を守るよ-後編-【音好きシリーズ】
「…これ、私が来る必要ありました?」
「ある!ここに直筆で署名をして欲しい!」
そう言って炎柱様が指差したのは、報告書の1番最後のページの一箇所のみ。
「…こんなの呼び出してやるほどの事ではありませんよね?」
「そんな事はない!」
先程よりも心なしが声が大きくなっているのは、嘘を隠す為だろう。
まぁ再三の呼び出しに応じなかった私が悪いし、ここは気づかなかったことにしよう。
そう結論づけた私は、
「…筆をお借りしてもよろしいですか?」
「うむ!俺のでよければ使ってくれ」
素直に署名をし、
「柏木の字は綺麗だな」
「炎柱様ほどではありません…はい。書けました。ありがとうございます」
お借りした筆を返そうと、両手で筆を持ち差し出した。
「…っ…なんですか?」
その手を炎柱様に両手でギュッと掴まれ、私の心は酷く動揺してしまう。
「最後に一つ聞いて欲しい」
炎柱様はそう言うと、私の目をジッと見つめ、私の両手を掴む力を強めた。
「…っ…なんでしょうか…」
動揺を悟られないよう普通に返したつもりだが、声が震えてしまい私の心は更に乱れた。
「上弦ノ参と戦う君の姿はまるで舞を待っているように美しく、そしてとても力強かった。その姿に心奪われ、俺の側にいて欲しいと心より思った」
何を言われているのかすぐに理解ができなかった。
「添い遂げるのであれば、父上のように心から好いた相手と共にと、常々決めていた。手始めに俺と恋仲になってはもらえないだろうか?」
「…っ!」
ブワッと頬が熱くなり、炎柱様の口から紡がれる甘い言葉に、私の耳は、心は喜びで震えていた。
それでも、心の中の変に冷め切った私が囁く。
炎柱様に相応しくない。
身寄りもない。
可愛げもない。
美しくもない。
好きになるのも烏滸がましい。
そんな私が炎柱様と恋仲に?
ありえないでしょ。
「…ごめん…なさい…」
「好いた相手でもいるのか?」
「…違います」
本当は炎柱様の事が好き。
「俺では不満か?」
「…違います」
好いた相手と恋仲になれたらどんなに幸せか。
「顔を見せて欲しい」
「…嫌です」
顔を見られたらバレてしまうから。
そう答えたのに。
グイッ
炎柱様は私の顎を掴み無理矢理目を合わせられてしまう。
「…君は天邪鬼だな」