第35章 年下幼馴染は私より何枚も上手✳︎無一郎君
アナウンサーの男性は”ほぉ!”と興味津々な様子で相槌を打ち、無一郎の言葉の続きを待っているようだ。私はと言えば、そんな様子を金魚のように口をパクパクとさせながら見ていることしか出来ない。
”もうすぐ誕生日が来れば僕もようやく18歳になるので、両親と学校の許可さえ下りれば結婚もできる。収入も、その人よりも僕の方が多いし。本当はすぐにでも籍を入れたいくらいの気持ちなんです”
事も無げに笑みを浮かべながらそんなことを言う無一郎に、テレビの向こう側はかなりざわついている。そしてもちろん
「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇえ!?」
当事者である私はざわつくどころではない。驚き大声で騒ぐ私に、隣にいる有一郎ではなく、姿の見えない母が
「あんた五月蠅いわよ!むい君の声が聞こえないでしょう!」
と、注意する声が聞こえてきた。
”ということで皆さん。まだ高校生である僕が、社会人である彼女…あ、相手は6歳年上なんですけど。僕たちの関係をママ活だとか、援助交際だとか、犯罪だとか…そんな汚い目で見るのはくれぐれも控えてください。万が一、ネットに彼女の誹謗中傷でも書き込んだ日には、即法的処置を取らせてもらうので、どうぞ肝に銘じておいてください。では、これで失礼します”
無一郎は言いたいことを全て言い終わるといつもの落ち着いた表情へと戻った。それから丁寧な所作で立ち上がり、これまた丁寧にお辞儀をすると、さっさと画面に映らないところへと歩いて行った。
”…はい。以上、時透六段の勝者インタビューでした”
そうして無一郎のインタビューは終了を迎えた。きっとこの映像を見ていた全国の視聴者は
さっきのどこが勝利者インタビューだよ
と思っているに違いない。
テレビの画面がプツッと切れ真っ暗になった。私はその真っ暗にした張本人、有一郎へと視線を向ける。
「どう?めっちゃ面白かったでしょ?」
「っ面白い!?面白いわけないじゃん!驚きすぎてさっき飲んだコーヒー吐くかと思ったわ!」
「だからあれはコーヒーじゃなくてカフェオレ」
「そんなの今どうでもいいでしょっ!」
有一郎と意味のないやり取りを交わしていると
ブーッブーッブーッ
「お、早速来た」
テーブルの上に置かれている有一郎のスマートフォンが振動し始めた。