第35章 年下幼馴染は私より何枚も上手✳︎無一郎君
…本当に…付き合うことになるのかな…
そんなことを考えながら、画面をじっと見ていると、元々大きめだったテレビの音を、有一郎が更に大きくした。不思議に思った私が有一郎の方を見ると
「すずねにとって本当に大事なのはここからだから。耳の穴かっぽじってよく聞いときなよ」
ニヤニヤと、何かをたくらむような顔をしながらそんなことを言われる。
「なにそれ…なんか怖いんだけど」
そんな文句を言いながらも言われた通りテレビに映っている無一郎へと注意を向けた。
”時透六段。優勝おめでとうございます”
30代半ばくらいの男性アナウンサーは定型文のお祝いの言葉を述べた後、無一郎に向けマイクの頭を向けた。
”ありがとうございます”
無一郎は特段いつもと変わらない様子でそれに答えている。
”最短勝利記録を上回りそうな勢いの対局でしたね”
アナウンサーは無一郎に向けていたマイクの頭を再び自分の方へ戻すと、そのままインタビューを続けた。
”記録に興味はありませんが、今回の対局は何が何でも勝ちたかったので気合を入れて頑張りました”
”ほぉ!時透六段にしては珍しい発言ですね。何か特別な想いでもおありだったのでしょうか?”
アナウンサーのその質問に
おじさんとおばさんの結婚記念日の為なんて答えを聞いたら、無一郎のファンが余計無一郎にのめり込んじゃうだろうなぁ
なんてことを考えながら無一郎の答えを待っていると
”実はこのトーナメントで優勝したら、僕がずっと片思いをしてきた幼馴染が僕と交際してくれると約束してくれたんです”
「…は?」
テレビ画面の向こうにいる無一郎は、普段はテレビで見せない満面の笑みを浮かべながらそう言った。更に無一郎は
"小さい頃からずっとその人のこと好きだったんですけど、その人僕より6歳年上で、ずっと歳下の幼馴染としてしか見てもらえなかったんです。しかも今、僕は高校生で、その人は社会人"
聞かれてもいないのに、ベラベラと喋り続ける。