第35章 年下幼馴染は私より何枚も上手✳︎無一郎君
「騙されたって人聞きの悪い言い方しないでよ」
「だってそうじゃん!無一郎…優勝できる可能性は低いって言ってたのに…」
「それはまぁあいつが悪いけど…でもさ」
有一郎は一旦言葉を切り、隣に座る私に正面が向くように身体の向きを変え、真剣な表情で私の顔をじっと見てくる。そんな有一郎の真剣な様子に、私は黙って言葉の続きを待った。
「あいつ、本当にすずねのことが好きなんだ。それもめっちゃ昔から。その気持ち、ちょっとはわかってやってよ」
僅かに笑みを浮かべながらそういう有一郎は、無一郎の”兄”の顔をしている気がした。
「……」
そんな様子に、私は何も言えなかった。
「この間、彼氏に浮気されて別れたじゃん?あの時も、落ち込んでるすずねを見て、無一郎滅茶苦茶怒ってたからね。相手の男探し出してぶん殴るって言ってたし」
「…っ嘘…無一郎が…?」
この間…そんなこと全然言ってなかったのに…
有一郎の口から語られたその言葉に、有一郎へと向けていた視線をテレビの向こう側にいる無一郎へと向けた。
「そんな意味のない嘘、俺が吐くと思う?」
その質問に、黙って首を左右に振った。
「すずねのどこがいいんだか俺にはわからないけど、あいつのことをずっと見てきた俺としては、あいつの、何年もこじらせてきた思いが報われれば…なんて思ってやらなくもないかな」
有一郎は、自分で言っていて恥ずかしくなってしまったのか、わざとらしく言葉尻を強くしているようだった。そんな素直じゃない様子に
「ふふっ…ゆう君はやっぱり弟思いの優しいお兄ちゃんだね」
懐かしいその呼び方と、笑いが自然と出てきてしまった。
「その気持ち悪い呼び方とむかつく笑顔。今すぐ引っ込めてくれる?」
「はいはいごめんなさぁい」
「…腹立つ。あ、ほら無駄話してる間に勝負ついてるし」
「え!?」
有一郎の言葉に再び意識をテレビへと向けると、いつの間に対局相手の姿はなく、マイクを向けられた無一郎だけが画面に映っていた。