第35章 年下幼馴染は私より何枚も上手✳︎無一郎君
「何その顔。気持ち悪」
「う…うるさいな!とにかく、無一郎の負けなんでしょ!だから約束は無効!やっぱり私と無一郎が付き合うなんておかしいもん!」
有一郎に、そして自分自身を納得させるようにそう言った私に
「は?何言ってんの?あんな弱い相手に、無一郎が負けるわけないじゃん」
有一郎は今日一番の不機嫌そうな声色でそう言った。
「…え?」
有一郎の口が紡いだ言葉は、確かに私の耳に届き、言葉として認識は出来たものの、その内容が私が想定していたものとは180度違うものだった。
「うわっ何その間抜けな顔。無一郎はどうしてすずねなんかがいいんだろう…俺には全然わかんない」
理不尽ともいえるその言い草に、流石にカチンときたものの、私にはそれに言い返すこと以上にやるべき…いや、確認するべきことがある。
「待って…待ってよ有一郎」
「何?」
「…今回の対局って…無一郎よりも強い…格上って言うの?格上が相手で…勝つのは厳しいんじゃなかったの?」
私のその問いに、有一郎はグッと眉を顰めた。
「はぁ?馬鹿言わないでよ。無一郎があのおっさんよりも格下?そんなわけないじゃん」
「え…でも…無一郎が自分の方が勝数がすくないから…勝てない可能性が高いって…」
有一郎の言葉が私の頭を疑問符で埋め尽くし、そんな私の顔を見ていた有一郎の顔は、不機嫌なものから、にやりと意地の悪い顔へと変わった。
「なるほどね。勝てない可能性が高いって言う部分は置いておいて、勝数が少ないっていう部分はまぁ事実だね」
意味ありげなその言い方がもの凄く気になる。
「腑に落ちないって顔に書いてあるね。じゃあ説明してあげる。俺も無一郎も、今日無一郎が対局している相手よりも勝数が少ないことは事実。でもさ、よく考えてもみなよ」
「…考えるって何を!?そんなもったいぶらなくってもいいじゃん!さっさと言って!」
いつもはこれでもかという程ストレートにものを言ってくる癖に、私を揶揄うように言葉を小出しにしてくる有一郎に段々と腹立たしさを覚える。