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鰯料理の盛合せ【鬼滅短編・中編・長編番外編】

第35章 年下幼馴染は私より何枚も上手✳︎無一郎君


「あ!始まったの?すずね!こっちまで聞こえるようにテレビのボリューム上げてくれる?」

「はいよぉ」


キッチンから聞こえてくる母の声に返事をし、リモコンのプラスボタンを数回押す。すると母の方まで音がちゃんと届いたようで


「ありがとさん」


と、適当な感じのお礼が聞こえてきた。


「ほら。始まったから静かにして」


そんなやり取りをしている間に対局が始まっていたようで、有一郎が不機嫌にも聞こえそうな声色でそう言った。


「はいはいごめんねぇ」


そんな有一郎の様子にも慣れっこの私は、母が先ほど私にしたのと同じように適当な返事をする。けれども有一郎は、テレビ画面に映し出された無一郎と無一郎の二回り程年上と思われる対局相手との勝負に集中しているようで何かを言われることはなかった。


…あれ…?無一郎って…こんなにかっこよかったっけ…?


将棋盤をじっと見つめる真剣な目。
顎に添えられた長くしなやかな指。
キュッと閉じられた口元。


テレビに映し出された無一郎の姿に、私の目は釘付けになっていた。そのせいか、解説者の説明も殆ど頭に入ってこず、どっちが優勢でどっちが劣勢かすらもわからない。

それでも、無一郎の眉間に出来ている皺と、対局開始時から全く変わらない相手の表情に、無一郎の方が劣勢なんだろな…と私は思っていた。


「決まりだね」


隣から有一郎のそんな言葉が聞こえ


「…なんで?まだ終わりとも言ってないじゃん」


テレビから視線を外し、有一郎の方を見る。


「盤面見ればわかる」

「…ふぅん…」


有一郎は1枚だけ残っていたクッキーに手を伸ばし、サクッとおいしそうな音を立てその半分を食べた。


「最初っから結果なんてわかってたのに、何であんな約束したわけ?」

「し…したくてしたわけじゃないよ!無一郎がすんごい迫ってきて…それで…」


あの時の至近距離を思い出すと何とも恥ずかしい気持ちになり、思わず口籠ってしまう。

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