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鰯料理の盛合せ【鬼滅短編・中編・長編番外編】

第35章 年下幼馴染は私より何枚も上手✳︎無一郎君


…っやだ…恥ずかし…っていうかどんどん顔が近づいてくるんだけど!?!?やだ無理やだ無理ぃぃぃい!!!


僅かに冷たい指先。
綺麗な青緑がかった瞳。
私よりも薄い唇。


それら全てが、私の思考回路を麻痺させてしまう。


「っわかった!わかったから!そんなにじっと見ないで!近寄ってこないでぇ!」


迫りくる無一郎の偏差値高めの顔に耐え切れず、私は首をたてに振ってしまった。すると


「よかった」


無一郎はそう言って驚くほどあっさりと私から離れていく。


…よかった…解放してもらえた…


”私は捕獲された獲物か何かか?”と内心突っ込みながら肩をなでおろしていると、無一郎からものすごい視線を感じ、ちらりとその顔へと視線をやる。


「約束、絶対に忘れないでね。もしすっとぼけるようなことをしたら……」

「……したら…?」


もったいぶるように言葉を切られ、ただでさえ騒がしかった私の心臓が、さらに激しく騒ぎ始める。


「それ相応の対応をするから」

「…それ相応の対応って…何?」


具体的に述べられなかったその内容が、私の不安を物凄く駆り立てる。なのに無一郎は


「内緒。じゃ、今日はもう帰るね。戸締り、ちゃんとしないとだめだよ」


飄々とした態度でそう言うと、鞄を手に取り玄関へさっさと向かって行く。


「え!?っちょっと!待って!」


慌てて引き止めようとするも、無一郎は全く振り返ることなく


「それじゃあ。大会が終わるまではしばらく来ないし連絡もしないから。心の準備、ちゃんと終わらせておいてね」


流れるような動作で靴を履き


「じゃあね」


ガチャっ。バタン。


玄関の外に出て行ってしまった。


部屋に一人取り残された私は(自分の家に取り残されたという表現を使うのはいささかおかしくはあるが)、中途半端に玄関の方へと伸ばした手をそのままに


「…ど…どうすれば…」


その場にへたり込んでしまうのだった。

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