第35章 年下幼馴染は私より何枚も上手✳︎無一郎君
「僕、この中では勝数が一番少ないんだ」
「勝数って…今まで勝ってきた数ってこと?」
「そう」
「ふぅん」
ずらりと並んでいる名前は、無一郎以外では知っている名前はない。
「有一郎は?参加してないの?」
「うん。兄さんは今回いまいち気乗りしないってエントリーしなかったんだ」
「ふぅん」
「興味がないにも程があるでしょ。…まぁいいや。本題はここから」
無一郎はそう言うと、私に見せていたその紙をスッとシンクに置いた。それから空いた両手で、私の両肩に、軽く掴むような動作で触れると
「僕がこの大会で優勝したら付き合ってよ」
私の目をじっと見ながらそう言った。その言葉に
「…っ!」
私の全身がビクリと大きく反応してしまう。
「勝数一番少ないし……優勝する可能性は低いんだけど。来月は父さん母さんの結婚記念日だし、賞金で旅行にでも連れて行ってあげたいって思ってたからさ。そのついで」
「…ついでって…何それちょっと失礼じゃない?それに…」
おじさんおばさんの結婚記念日がどうでもいいわけではなし、失礼だなんて言いながら、無一郎の気持ちから目を背け続けている私の方がよっぽど失礼だと思う。けれどももし、無一郎が優勝してしまうようなことがあれば、私たちの、"幼馴染”と言う長年築いてきた関係を壊さなければならない。
「そんな…急に言われても困るよ…」
世間の目が気になってしまう私には、どうしてもそうする決心がつかない。
「何度も言うけど、僕の中ではちっとも急な出来事じゃない。僕がすずねに彼氏が出来る度、どれだけ悔しかったかわかる?どれだけすずねと自分の年齢差を呪ったかわかる?はっきり言ってもうこんな関係うんざり。負けたら潔く引き下がるから、一度くらい僕にチャンスをくれたっていいでしょ?」
じっと見つめられ、訴えかけるように言われ、私の心はグラリと大きく揺れた。無一郎は私の心の揺らぎを目聡く察知したのか
「ね?…いいでしょ?」
「…っ!?!?」
私の両肩に置いていた手を移動させ、そのまま私の両頬を優しく包み込んだ。