第1章 頭に響く無駄に大きい声【音好きシリーズ】
「実に有意義な任務だった!」
私からしてみれば、恋人同士を装うためとはいえ、苦手な相手とよそ行きの着物を着ながら腕を組み、そのまま長時間歩かなければならないのは実に辛い任務だった。
「こんなにも早く任務を終えることが出来るのは久しぶりだ!まだ時間もある!共に食事でもどうだろうか?」
「すみません。お誘い頂いたのに恐縮ですが、この後用事がありますのでこれにて失礼させていただきます」
嘘だ。用事なんてない。ただ、もう炎柱様と共にいるのに疲れただけだ。着替える場所はないかと私が辺りをキョロキョロと見回していると、
「む?そうなのか?宇髄からは任務が早く済んだら食事に連れて行って欲しいと言われたのだが」
炎柱様の口から信じがたい言葉が。
「…天元さんが…そう言ったんですか?」
私が炎柱様の方を見ると、炎柱様も何処を見ているかいまいちわからないいつもの表情を浮かべ、私の方を見ているようだった。
「うむ!君に"いい加減克服しろ"との事だ!」
「…余計な事を」
帰ったらひとこと文句を言わないと気が済まない。そう思いながら自分の足元をじっと睨みつけていると
「柏木は俺の事が苦手か?」
「…っ!」
先程と同じ声色で、炎柱様は私にそう問うた。態度には出さないようにしているつもりだったが、やはり流石の柱というべきか、私の心の中は炎柱様にはお見通しだったようだ。嘘をついてもきっと簡単にバレてしまうだろう。
「…苦手です」
「わはは!正直だな!理由を聞かせてもらってもいいだろうか?」
あまり話したくないというのが正直な気持ちだった。けれども"このままではいけない"と思う自分のほんの一部分がそれを許してはくれない。
「…音に敏感なので炎柱様の…大きな声が苦手です」
「よもや!それは気づかずにすまない!次からはなるべく声を抑えよう!それで解決だな!」
炎柱様はうんうんとひとり満足そうに頷いている。
「それだけではありません」
「む?そうなのか?」
「…体格の良い男性が…怖いんです」
炎柱様は私のその言葉に、明らかに納得がいかないという表情を見せる。
「だが君は宇髄の継子だろう?宇髄の方が俺よりもよっぽど体格がいいではないか」
「…天元さんも最初は怖かったです。デカいし騒がしいし。…でも、天元さんは奥様方を心から大切にしていますから」