第1章 頭に響く無駄に大きい声【音好きシリーズ】
「宇髄が妻を大切にしている事と、君が体格のいい男が怖いのとなんの関係がある?」
「…それは私の個人的な事情ですので…炎柱様が知る必要のない事です」
「そうか!だが俺は知りたい!」
あぁ。すごくイライラする。なんで炎柱様とこんな話をする必要があるのか。柱は忙しいんでしょ?さっさと帰って少しでも身体を休めれば良いのに。
「私は話したくありません。食事にも行きません。もう良いですか?帰ります」
一刻も早くこの場を去りたかった。隊服に着替えるのを諦め、はしたないとは思いながらも着物の裾を手で持ち上げる。けれども、私の腕を炎柱様がガシッと掴んだ。
「…っまだ何か?」
「俺は君に興味がある!もっと話がしたい!」
「私は話したくないと言いましたよね?興味もありません。その手を離してください」
「離さない!」
「離してください」
「離さない!」
「離してください!」
「君も頑固だな!」
「どっちがです!?」
「よし!わかった!」
何がわかったというのか。話の通じない炎柱様に私のイライラゲージはもう爆発寸前だ。
「今日のところは諦める!だが次、任務を共にしそれが無事済んだ暁には食事に行こう!」
「…そう約束すればその手を離してくれるんですか?」
「うむ!」
もうこの場は適当に返事をし、取り敢えずその手を離してもらおう。そう結論づけた私は炎柱様に向かってニコリと微笑み、
「わかりました。約束します」
と、心にもない返事をする。
「よし!約束だ!」
「はい」
まぁ、嘘だけど。
炎柱様は満足そうな笑みを浮かべると、私の腕をようやく解放してくれた。
「街まで送ろう!」
「結構です。炎柱様、お疲れでしょう?早く帰ってお身体を休めて下さい。それでは」
私は
シィィィィィ
と深く呼吸をし、全神経を足に向け鬼と対峙する際と変わらない速さでその場を後にした。
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なんだか今日の任務は身体は疲れなかったが心が非常に疲れた。
「ま、これでしばらく炎柱様と会うこともないでしょう」
雛鶴さん、マキオさん、須磨さんにお土産でも買って帰ろう。天元さんの分は買ってやらないんだから。
そんな事を思いながら私は音柱邸へと急ぎ足を進めた。
1週間後、再び炎柱様と任務を共にすることになるのを私はまだ知る由もない。
-続-