第1章 頭に響く無駄に大きい声【音好きシリーズ】
「む?先程はあんなにもニコニコ笑っていたのに、何故そんなに怒ったような顔をする?」
「…はい?なんのことでしょうか?」
「あの可愛らしい子に向かって微笑んでいただろう!ああ言った表情の方が君には似合う!」
…一体この人は、いつから私のことを見ていたのか。聞きたい気もするが、正直言うとそこまで喋りたくないので、私はその疑問に蓋をした。
「俺は炎柱煉獄杏寿郎!」
あ、この流れで自己紹介するのね。
「…私は階級丙、柏木すずねです。継子…と言える程の実力はありませんが、音柱である宇髄天元様に稽古をつけてもらっている身です」
「承知している!今回の任務、君を連れて行くのが適任だと御館様より仰せつかった!厄介な鬼のようではあるが、君はそういった鬼の相手が得意だと聞いた!」
炎柱様のその言葉に私は唖然とした。
継子の件と言い、今回の任務の件と言い…御館様は私のことを買い被り過ぎている気がする。
そんな事を考えていると、
「美味い!」
「…ヒッ!」
隣から聞こえてきた大声に驚きすぎて、私の口からは思わず声が漏れてしまう。
「美味い!美味い!」
団子をひとつ飲み込むたびにそう叫ぶ炎柱様。
…本当に苦手。
そう思いながら、私もお団子の最後の一口をパクリと頬張った。
————————————
結果的に任務は怪我もなく無事成功した。事前に報告を受けていた情報通り、鬼は独特な超音波のような音を放ち、女性だけを上手く攫い食っていたようだ。自然の鳴らす音に上手く紛れ込ませてはいたが、音の種類に敏感な私からすればそんな物はへでもない。
"あの人が、私を捨てたあの人が憎い"
そう恨み言を残し、炎柱様が頸を切り落とした鬼は消えて行った。
あの鬼も、愛した人に捨てられたのか。男なんてみんな同じだ。
そんな事を思いながらボーッと鬼の頸があった場所を眺めていると
「俺には全く仕組みがわからなかった。やはり御館様の言った通り柏木のその音を敏感に聞き分ける能力は凄い!尊敬に値する!」
「そんなことはありません。それにわかったとしても、頸を切れなければ意味がないので」
「卑屈になる必要はない!共に任務にあたる者の助けになる!それで十分だろう!」
どの口がそれを言うか。
心の中で思わずそうごちた。