第35章 年下幼馴染は私より何枚も上手✳︎無一郎君
「ま、すずねもそんなんでも社会人だしね。周りの目が気になるのは仕方ないか」
無一郎は私から離れると、腕を組み台所のシンクに背を預けながらそう言った。
もし私が無一郎と逆の立場だったとしたら、年齢を理由に自分の気持ちと向き合ってもらえず、うじうじうじうじと悩んでいる割には家に来ることを許可し、夕食を共に食べたり、休みの日に一緒に過ごしてくれる…なんてことをされたら
”そんな中途半端中な関係嫌!はっきりしてよ”
と、絶対に言っている。けれどもそれがわかっていても、どうしてもあと一歩…無一郎に歩み寄ることが出来なかった。
「…ごめん」
「謝られると逆にむかつくんだけど」
不機嫌そうな声色でそう言った無一郎は
はぁ…
と珍しく大きなため息を吐いた。
「……」
お互いに言葉を発しなくなり、沈黙が部屋を包み込む。
…やだな…こんな空気
気まずさや罪悪感に苛まれ俯いていると
「…あ…そうだ」
無一郎は、何か思いついたと言わんばかりにそう言った後、部屋の隅に放ってあった無一郎の鞄のところへと向かっていった。
…どうしたんだろう?
鞄の中身ををごそごそといじり、何かを探していると思われる無一郎の様子を遠目から観察する。
「あった」
無一郎は鞄の中からA4クリアファイルに挟まれたままの紙を取り出し、私の方へと戻ってくると
「これ見て」
文字とあみだくじのようなものが書いてある紙を、私が見やすいように向きを変え見せてきた。
「…これ…トーナメント表?」
「そう。今度ある鰯王戦のやつ。僕の名前はここ」
「ふぅん」
「相変わらず失礼なくらい興味ないよね」
「だって何回説明されてもルールが意味不明なんだもん」
幼馴染2人が活躍している世界だ。テレビ越しに応援するときに、少しでもその戦況がわかればと本を手に取ってみたり、もちろん無一郎と有一郎に直接教えを乞うたこともある。それでも全く理解できないんだから仕方ないと、とうの昔に諦めた。最近はテレビ越しに応援すらもしなくなり、本人、私の母、もしくはネットで結果を知らされる…そんな状態だった。