第35章 年下幼馴染は私より何枚も上手✳︎無一郎君
わかってるくせに
わかってるくせに
わかってるくせに
恨みがましい気持ちで無一郎を睨みつけるも、無一郎はなぜかより笑みを深めるだけ。
「…っなにさ!そんなに余裕そうな顔して!私のこと馬鹿にしてるんでしょ!?」
”何て理不尽な”と頭の片隅で思いながらも、6歳も年下の無一郎に翻弄されている自分が情けなく、そんな八つ当たりまがいな言葉を投げつけてしまう。
「僕がすずねのこと、馬鹿にするはずがないでしょ?」
「してるじゃん!現に笑ってるじゃん!」
イライラとしながらタオルで手を拭いていると、無一郎がグッと私に顔を寄せ
「…っ!」
10代の艶やかな肌を惜しげもなく晒し、少し眠たげな青緑がかった瞳が私のそれをそれをのぞき込んできた。
…だめだ…ドキドキしちゃう…
じっと見つめられ、胸の鼓動はどんどん速まっていく。
以前は…そう、あの日無一郎に
”いつまでも子どもだと思わないでくれる?”
と言われ迫られる前は、無一郎のことを"6歳下の幼馴染という目でしか見てこなかった。だからこんな風に顔を寄せられようが、身体をくっつけられようがドギマギすることはなかった。
なのにあれ以降、私はすっかり無一郎のことを”男”として意識してしまい、何度となく胸を騒がせていた。
だったら会わなければいい
そう思いはしたものの、別に無一郎に会いたくないわけじゃない。こうして確かな好意を示されることも…嫌なわけじゃない。むしろ段々とそうされるのを待っている節もある。
”現役イケメン高校生プロ棋士、時透兄弟”
なんて雑誌やテレビで取り上げられるほどの無一郎に好かれて、嫌な気持ちになる女が果たしているのだろうか?いや絶対いない。いるならさぁ、今すぐ私の前に現れしっかりしろと、情けなく赤く染まった頬を張り倒してくれ。
「もうつまんない意地張るのよしなよ」
「…っ…別に意地なんかはってないし…!」
「張ってるでしょ?今の自分の顔、鏡で見たことある?」
「あ…あるわけないでしょ!」
「なら持って来ようか?」
「いらない!」
「…ふぅん」
無一郎はつまんなそうにそう言うと、私から顔を放した。