第7章 その音を守るよ-後編-【音好きシリーズ】
「すまないが、あまり起きていると胡蝶に叱られてしまうのでな。俺はこちらに失礼する」
「…はい」
私が大人しく座ったのを見届けると、炎柱様はベットに入った。
やっぱりまだあんま動き回ったらダメなんじゃないか。なのにあんな所まで来るなんて。
そんなことを考えながらジーッと炎柱様を見ていると
「何か言いたそうな顔だな?」
そう言って炎柱様はジーッと私を見返してくる。
「…そんなことは…ありません」
「そうか!だが俺は君に言いたいことが沢山ある!」
何を言われるのだろうか。思い当たることが沢山ありすぎて困ってしまう。
震え出しそうな手を抑える為、私は自分の膝に置いてある左右の手をギュッと握り合った。
「まず1番最初に言わせてもらおう!」
君のせいで
君がもっと
どちらだろう。
「君のおかげで俺はこうして命を繋ぐことが出来た。心から礼を言わせてほしい。感謝している。いや、感謝してもしきれない」
「…え…?」
思いもよらないその言葉に、俯き下を向いていた顔を炎柱様の方へと向けた。そして視界に飛び込んできたのは眉を下げ、優しい瞳で私を見つめる、初めて見る炎柱様の顔だった。
「…っ!」
ギュッと、甘くて、苦しくて、どうしようもない気持ちが私の胸を締め付ける。
「…どうしてそんなこと言うんです?」
小さく呟いた言葉は炎柱様の耳には入らなかったようで
「む?なんだ?」
と、私の方にズイッと顔を近づけて来る。
そんな優しい声を、優しい瞳を、私に向けないで。
「…っどうしてそんなに優しい言葉を私にかけてくれるんです!?」
突然大声を上げたにも関わらず、炎柱様は少しも驚いた様子を見せることなく、依然として優しい瞳を私に向け続けている。
それが無性に腹立たしかった。
「っ結局私は、炎柱様の剣士としての命を守ることが出来ませんでした!自分はたいした怪我もしなかったくせに!守れって…そう言われていたのに!もっと責めてください!優しくなんて…しないで!!!」
…はぁはぁはぁ
興奮して、大声で捲し立て、上官に向かって私は一体何を言っているのだろうか。何がしたいのだろうか。
自分でももうわからなかった。
「成る程。君はずっとそう思っていたのか。そう思っていたならば、何度呼んでも来なかったのも納得が行く」