第7章 その音を守るよ-後編-【音好きシリーズ】
咄嗟に逃げようとした私の手を炎柱様がパシリと掴む。
「…っ離してください」
「離さない」
「もう少ししたらこちらから部屋に伺いますので」
「いや。今連れて行く」
このやり取りには非常に覚えがある。こうなったらこの人は絶対、私の意見なんて聞いてくれない。
「っ善逸!助けて!」
助けを求めて善逸の方を見たが、
「無理無理無理無理」
首がもげてしまうんじゃないかと言うほどの勢いで頭を左右に振り、"拒否"の意を示していた。
「っ姉弟子を…見捨てるの!?」
私は炎柱様に掴まれていない方の手で、善逸の病衣を掴んだ。
じーっ
と善逸は掴まれている部分を見つめた後、
じーっ
と今度は私の隣にいる炎柱様の顔を見て、
バシッ
信じられないことに私の手を叩き落としたのだ。
「…っ善逸ぅ!」
ギロリと睨みつける私に
「ごめん。すずね姉ちゃん。姉ちゃんよりも煉獄さんの方が断然怖い」
そう言い捨て、いそいそとベッドに潜り込み私に背を向けた。
「では行くぞ!」
縋るように炭治郎くんと伊之助くんを見たが、
スッ
と目も合わない間に晒されてしまった。
「っ裏切り者ー!!!」
嬉しいやら悲しいやら、気づくと涙は引っ込んでいた。
炎柱様に手を引かれ部屋に連れていかれる途中、問診に向かう胡蝶様と目が合った。咄嗟に
「助けてください!」
「その言い方では俺が人攫いのようだな!」
手を伸ばし声をかけたが、ニッコリと、それはまぁ素敵な笑顔で
「自業自得です」
と言われてしまい、この蝶屋敷に私の味方はいないのだと察したのだった。
一度アオイさんに案内され訪れた部屋に、炎柱様に手を引かれ連れてこられた。ここまでされて逃げようと思う程、私も馬鹿ではない。それになによりも、炎柱様に無理をさせるわけには行かない。
「入るといい」
チラリと炎柱様を見上げると、笑顔ではあるが圧迫感と有無を言わせぬ雰囲気をふつふつと感じる。
「…お邪魔します」
私が完全に中に入り、炎柱様も室内に入ると
パタリ
と静かに扉が閉められた。
「そこに座るといい」
炎柱様が座るように示したのは、私がこの間こっそり腰掛けさせてもらった折り畳み式の椅子だった。